| 今日ユダヤ人は、全世界を見渡しても、わずか1480万人、全世界の人口60億人のわずか0.25%しかいない。それにもかかわらず、商売の世界をはじめとして、抜きんでた人材を満天に輝く綺羅星のごとく送りだしている。
世界に名を残すユダヤ商人をあげれば、世界最大の金融財閥ロスチャイルド家、、南アフリカのダイヤモンド王でありデ・ビアス社創始者のアーネスト・オッペンハイマー、シェル石油創業者マーカス・サミュエル、アメリカのデパート王であるシュトラウス家、イギリスのロイター通信創始者ロイター、アメリカのホテル王アスター一族、、新聞王ジョセフ・ピューリッツァー、フランスの自動車王アンドレ・シトロエン、イタリアのオリベッティ社を創業したカミオ・オリベッティ、イギリスのアジア貿易を牛耳ったサッスーン一族など、名前をあげればきりがない。
現在、アメリカで活躍するユダヤ人をみても、マイケル・アイズナー(ディズニー会長)、マイケル・デル(デルコンピューター創業者)、ジョージ・ソロス(投資家)、グリーンスパン(米連邦準備理事会議長)、ピーター・ドラッカー(経営学者)、アンディ・グローブ(インテル創業者)、スティーブン・スピルバーグ(アカデミー賞受賞映画監督)、ロナルドとレオナード・ローダー兄弟(化粧品エスティローダー)など、全米で3%にすぎないユダヤ人が各界の第一線にいる。
さらに、ノーベル賞を例にとると、20世紀が始まった1901年から1994年までの間に、663人にノーベル賞が授けられているが、このうちで140人がユダヤ人である。つまりノーベル賞受賞者の21.1%がユダヤ人であった。人口比からいえばノーベル賞を一つも取らなくてもおかしくないはずである。
また、アメリカの経済雑誌「フォーブス」の「世界でトップの400人の億万長者」1999年のリストでは、34才のマイケル・デル(デルコンピューター創業者)を筆頭にして、60人のユダヤ人が並んで、全体の15%を占めている。
なぜユダヤ人だけが抜きんでるのか、これまで世界の多くの人々が、ユダヤ人の考え方を研究し、またユダヤの戒律やユダヤ商法に関して、数え切れないほどの書籍が、世界の各地で出版されてきた。しかし私たちユダヤ人から見れば、それらの殆どが本質とはかけ離れた、上っ面の「ユダヤ人論」であり、興味本位の「ユダヤ商法」に過ぎない。
「ユダヤ商法」とは、ユダヤ5000年の、途方もなく永い、しかも極めて特異な歴史の中から生みだされたものである。
われわれユダヤ人は、遠く紀元前3000年ものむかしから、独立民族として存在していたにもかかわらず、紀元70年に最後のユダヤ王国をローマ軍によって滅ぼされてから、1948年のイスラエル建国までの1878年もの間、国を失い、流浪の民として世界に四散し、安住の地をえることができなかった。
そして、その土地その土地において、古くは奴隷や賎民として生きることを強いられ、中世にいたっても、いつも不当な蔑視と差別の中で、ユダヤ民族であるがゆえに、ようやく身につけた財産一切を剥奪され、永く住み着いた土地を追われる迫害を受け続けた。いうなれば、ユダヤ民族そのものが、いつ何時地球上から消滅してもおかしくなかったのである。
それにもかかわらず、われわれは、迫害を受け追放される度に、新たな見知らぬ土地で、自分の力だけを頼りに業を起こし、したたかに民族として生き残ってきた。
いわば、「ユダヤ商法」の本質とは、ユダヤ人がもっている、恐るべき逆境の中から業を起こすという根源的な力のことをいうのである。その力とは何なのか・・その謎を解きあかすのが、本書の目的である。
私は1968年に来日し、東京の渋谷区広尾にあるシナゴーグ(礼拝所)のラビ(ユダヤ人地域社会のリーダー)として、10年間日本に滞在した。その後、ユダヤ人子弟を教育する、名門私立校ノースショアヒーブルアカデミーの校長として迎えられ、現在はニューヨークでラビとして、日常、担当地区の人々を導き、経営者やビジネスマンの相談相手となっている。そのかたわら、長年にわたって、ユダヤ人がなぜ大きな成功をおさめてきたのかを探求してきた。
このたび、本書を出版するにあたって、私は同僚の多くのラビに諮りながら、ユダヤ商人が5000年の歴史の中で培ってきた力と知恵を、「ユダヤ商人の十戒」という形でまとめてみた。私は日本の文化を学び、物事をいくらか日本人の眼で見ることができるので、日本の読者に理解しやすいように、できるだけわかりやすく説いたつもりである。
21世紀の日本は、本当の意味での競争の時代を迎えるだろう。そして、商売がグローバルな戦いになればなるほど、日本人としてのアイデンティティーが重要になってくる。これまで日本は、個人より集団の力を頼り、同質な者を好み異質なものに対する拒否反応が強かったが、新しい時代ではそういうわけにはいかない。異質な中にあって協調しながらも、独自性を貫くことを強く求められるだろう。これは日本人にとっていささか苦手な対応かもしれない。
しかし、日本がこれから迎えようとしている状況は、ユダヤ人に目新しいことではない。何千年もつづいてきた常態である。ユダヤ人ほど早くから、国境を越えて商売を起こし、異民族の中にあってその独自性を失わず生き長らえてきた民族は、他にないのである。
本書は、新しい競争の時代を迎える日本の経営者にとって、必ずや豊かな示唆を与えることだろう。またそうなることを切望している。本書を手にされた読者は、できればご自分がユダヤ人になったつもりで読んでほしい。そうすれば、ユダヤ人の悠久の知恵があなたの血となり肉となるだろう。
私の日本語の能力は限られているので私が英文で書き、古くからのもっとも親しい友人加瀬英明氏に日本語訳を引き受けていただいた。彼我の造詣が深い加瀬氏には、翻訳を超えて実に貴重なアドバイスをいただき、共著者といえるほどのご助力をいただいた。ここに感謝の意を表したい。
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