安芸 洋助の、この1冊
第7回:マッカーサーが日本で翻訳出版を禁じた衝撃の書
「アメリカの鏡・日本」ヘレン・ミアーズ著・メディアファクトリー刊
 昔、私の若い頃(昭和30年代)、「ニュールンベルグ裁判」という映画を観たことがある。この映画は、ナチスドイツの戦争犯罪人を裁いた連合国側裁判の様子を描いたアメリカ映画だったと思う。
 今でも憶えているが、映画の中で裁判長の言ったセリフで気になったことが一つあった。それは「この裁判は、文明の名のもとに、人道上の罪を裁くものである」と言ったことである。すでにある国際法によって裁くのなら判るが、あとから勝手に作った法によって人間が人間を人道上の罪で審判できるものかどうか。
 家に帰ってさっそく親父にそのことを聞いてみた。親父はわが意を得たりとばかりに、「そうだ、もし人道上の罪で裁くのなら、アメリカがやった広島、長崎への原爆投下も当然裁かれるべきだ。(これは国際法違反でもある)」ということであった。

 ひるがえって東京裁判をみてみると、これと同じ論法で、人道上の罪という事後法により、この前の戦争を日本側の侵略戦争とみなし、立証の根拠の薄い戦犯も、戦勝国の強権で死刑または有罪として裁かれたのである。
 この東京裁判をはじめとして、アメリカおよび連合国側には、日本を二度と戦争の出来ないように骨抜きにし、弱い国家にしようという意図があった。
 そのために、マッカーサーを頂点とする、GHQ(連合軍総司令部)は、日本の過去を悪とみなし、国民を洗脳し、弱体化する占領政策が採られたのである。
 それはあらゆる面にわたって実施された。憲法は変えられ(戦争放棄)、財閥は解体され、教育は変えられ(修身廃止、教科書黒塗り)、歴史の見方(神道否定)にまで手を加えられ、これがみな民主化の美名のもとに行われたのである。
 このマッカーサーの政策は、日本人の敗戦ショックも手伝ってか、予想以上に浸透、成功した。これは日本国民にとって良い面も当然あったが、戦後55年経った今でも、憲法改正は絶対ダメ(自分の国を自分で守れない)、戦前の日本は軍国主義で、侵略国家で悪かった、外国からそこを衝かれるとすぐ謝る、といった自虐的なフニャフニャした人間を少なからず生んだ、悪い面も相当残したのである。

 さて、前置きが長くなって恐縮だが、戦後間もない1949年当時、日本占領連合国軍最高司令官として君臨していたマッカーサーが、日本での翻訳出版を禁じた衝撃の書「アメリカの鏡・日本」を紹介したいと思う。

 著者のヘレン・ミアーズは、当時49才のアメリカ女性歴史家で、戦前何度か来日、滞在し、東洋学を研究、また有数の日本通と言われた人である。終戦直後の1946年にGHQの労働政策委員としても来日。この本は最初1948年にアメリカで発刊された。

 何がマッカーサーの逆鱗に触れたのか。
 この本の表紙カバーに、ヘレン・ミアーズの言葉として、次のようなことが記されている。

 「(戦後)アメリカは日本を裁くほど公正でも潔白でもない」
 「真珠湾攻撃は青天の霹靂ではなかった。アメリカはさしたる被害なしに日本に第一撃を仕掛けさせるよう画策した」
 「原爆投下は必要なかった。それは日本に対して使ったのではなく、ソ連との政治戦争で使用したのだ」……と。

 これらの言葉は、私が前置きで紹介したGHQの占領政策にとってタブーのことばかりである。
 彼女は、当時のアメリカ人としては考えられないようなことを本書の中で言っている。
 占領政策は、日本国民とその文明への抑圧である。日本人は、多くのアメリカ人が信じ込まされているような好戦的で野蛮な人種ではない。日本は天皇と神道を軍隊に結びつけた狂信的な国民ではなく、古来、宗教と伝統を重んじる温和な民族である。アジア、中国大陸への侵略性を言うなら、欧・米はむしろ先進国?ではないのか。
 日本の進出は合法的なものであった。第一次大戦時、同盟国だった日本が、なぜわれわれ(アメリカ)と戦わねばならなかったのか。それを知ることこそ、これからの世界とアジアを考える上で重要な事だ……。このような記述が、単に国際政治上のことだけでなく、世界と日本の歴史、文化、教育、宗教、人間性などをふまえた深い洞察のもとに書かれている。

 驚くべきことは、これを書いたのが戦勝国側の一アメリカ女性であり、書いた時期が極東軍事裁判(東京裁判)が終わった年だ、ということである。
 敗戦国日本に対するこれだけ公平な見方と鋭い分析力は、われわれの認識をはるかに超えるものがあり、その後、日本人が書いた本で、ここまで克明に客観的に著した本は少ないのではないか。

 ここで誤解のないように言っておきたいのは、私はべつに反米主義者ではない。むしろ、その陽気な人間性や、民主主義の法治国家という面で好きな国である。ヘレン・ミアーズのような時流の枠を超えたケタはずれの女性を生みだす土壌、懐の深さには敬意を表している。
 アメリカは同盟国であり、世界一富裕な国であり、国益上も、安全面からも、これからも仲良くしていくことは当然必要である。

 ただ本書を推薦するにあたって、私が言いたいことは、戦後55年、今でも日本を呪縛のようにとらえている、戦前、戦中に日本がやったことはすべて間違いで、180度転換した戦後民主主義こそ正しい、という考え方からそろそろ解き放たれてほしいからである。世界は侵略戦争だから悪で、そうでなければよい、などという二者択一の単純なことで動いているのではあるまい。国際間は、それぞれの国益、安全、道義性、合法性、歴史、文化……など様々な要素、尺度から、もっとシビアで広い見方が必要なのではないか。

 現代の日本人は、外国に対して、誇りと自信を失っている、とはよく言われる言葉であるが、本書を読むことによって、日本人は世界に向かって卑下することなく、胸を張って立派な国民である、という自覚をもっていただければ幸いである。

安芸洋助
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