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盛運の気 冒頭より
第1章 支配する者、される者
支配と服従私は現在のところ、年に50回前後の講演を各地で行っております。その聴衆の大半は、事業経営者か、あるいは会社幹部の重役さんたちです。
経営コンサルタントでもない私が、なみいる経営のベテランを前にして、人生成功術などに関してお喋りさせていただいているのですから、我ながら少々妙な気分になることもありますが、これも「心の時代」などとよばれる現代の風潮のせいでしょう。
ところで、このお陰で、私は大勢の経営者に接することとなり、その結果、私の方もたくさんのことを、皆さんから学ばせてもらったのですが、それらのいくつかを、ここに紹介してみたいと思います。
ある夏、山陰北陸路にある加賀温泉と、山陽神戸の近くにある有馬温泉、この二つの有名な温泉で行った講演が、私に少なからざる衝撃と教訓を与えてくれました。最初は加賀温泉で、あるチェーンストアの本部会社が各地のチェーン店を集めて研修会を開催し、その講師として私はそこに招かれたのです。
ところで、その時の講演の演題は「人蕩術」というものでした。これは、「人たらし」つまり、人を自分の方に引きつけてしまう術、言い換えれば、自分に魅力を発揮させる秘訣という意味です。
この時の講演は、我ながら、とてもうまくいったと思います。数百人の聴衆は熱狂し、講演が終わった後も、私にむかって口々に、「いやあ、すばらしいお話でした」とか、「目からウロコが落ちた思いです。今まで、私は全然反対の考え方をしていました」などと言ってくれたのです。私はおおいに気を良くしました。
ところで、この聴衆のなかに、ある有名会社の専務さんがいまして、この人が、「ぜひ、私どもの会社で、この話をしていただけませんか?」と頼んできました。近いうちに、有馬温泉で、社の研修会があり、そこで講演してくれないか、と言うのです。幸い、私のスケジュールも空いていたので有り難く引き受けました。
ところが、今度の聴衆はぜんぜん反応がないのです!ほとんどの聴衆は、うつらうつらと眠っているがごとくでした。こんなことはそれまでになかった経験です。前回と全く同じ話をして、しかも、両方とも温泉ホテルの広間で、前回は全員が熱狂し、今回は全員があくびをし、ほとんど私の話をうわの空で聞いているのです。
私は焦り、冷や汗をかき、おおいに気分を悪くしました。「なぜこんなことが起きたのだろう?」講演後、私は考えこみました。そして、すぐその理由がわかったのです。いくつかの原因が他にあったかもしれませんが、その最大の理由は、「前回は経営者の集まりであり、後者は従業員の集まりだった」ということなのです。
思い出してみれば、それまで、私がこの「人蕩術」について講演したのは、ほとんど経営者の皆さんの前だったのです。経営者にとって、人を引きつける魅力があるかないかは死活問題に関わるほどの重大事です
いきおい彼はこの問題に対し真剣にならざるをえませんし、また少なからざる興味ももっております。だから私の「人たらしの術」はおおいに受けたのです。
語呂合わせのようですが、カネはコネを通じてこちらへ入ってくるのであり、そのコネをつくる最大の武器は「その人の魅力」だからです。一方、従業員の求めるものは「安全」あるいは「安定」なのです。
社員は身の安全にもっとも関心があり、コネづくりなどの作業は(大局的な意味においてのですが)社長にまかせ、そして、その社長の力に寄りかかり、彼に依存しております。
もちろん、私は社員のすべてがそうであると極論するつもりはありません。個人差もありましょうし、会社の業種やまた発展的な会社と保守的な会社の差もありましょう。
しかし、社会における経営者と従業員の力関係のあり方を、あるがままに見れば、この二者間の違いは容易に読み取れるはずです。
考えてみれば、「人たらし」は、もう一歩進めば、「人たぶらかし」ともなりかねません。これはまた、社員を社長である自分の方へ引きつける秘密でもあるわけです。
だとすれば、私の「人蕩術」は、昔の中国の韓非子の教えと同じく、それは一種の帝王学であり、臣下には秘密にしておかなければ、君主の座が危うくなるという、支配者のための術かもしれません。だから、社員たちが、私のこの講演に興味をおおいにもつということは、社長に対して、下剋上の気運さえ起こしかねないほどの活気があることを示していると言えましょう。
いずれにせよ、その後の私は、講演依頼があった時、そして、その講演が「人蕩術」であった時は、必ず主催者側にこう質問してみることにしております。「聞き手の皆さんは、経営者でしょうか、あるいは社員の方でしょうか?」と。
もし、聞き手のほとんどが社員である時は、演題を他のもの、たとえば、「深層意識アラヤ操縦術」などに変えてもらうのです。 …つづく
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