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まえがき
二宮尊徳(金治郎)は、歴史上まれにみる「再建の神様」であった。幕末のころ、六百十余の藩や郡村の財政危機を立て直し、大飢饉から多くの人々を救い、一農民の出身でありながら、ついには幕臣となって活躍した。
身長六尺一寸(183センチ)、体重24貫(90キロ)、いかつい顔、まゆ太く胸厚く、見るからにエネルギッシュな風貌の持ち主であった。ところが、世間の尊徳のイメージは、この実像とあまりにも掛け離れている。
だれにも、小学校の校庭にあった金治郎少年の銅像から、「やりたいことも我慢して、勤勉実直、質素倹約」という印象が強く残っているからである。尊徳は、禁欲主義を否定した人である。だれからも教えられず、大自然から実地につかみとった彼の思想は、人間の欲を認め、まわりと調和させながら、心も金も、同時に、豊かにする「実学」であった。
徹底した合理主義と積極精神で、増産計画を立て、人心を収攬し、次々に藩や郡村を再建していく過程で、実生活に根ざした独自の思想を確立したのである。
その実践思想は、明治になって、渋沢栄一、安田善次郎、豊田佐吉はじめ代表的な事業家に多大な影響を与えた。戦後も、松下幸之助や土光敏夫らの多くの名経営者が、二宮尊徳を再評価し、その事業経営に大きく活かした。
彼は、日本的経営のまさに原点を示した、希有の巨人なのである。尊徳の思想を知るには、この「二宮翁夜話」を読むのが、いちばんよい。初版「二宮翁夜話」は、尊徳が再建の神様として活躍し、油の乗りきった時代の言行を、門弟の福住正兄が折にふれて筆記し、後にまとめられて、明治17年に出版された。
全181話を通して、根源的なものの考え方、行動のよりどころをはじめ、商売の心得、人心の掌握などを、卑近な実例や体験談をまじえ、当時としては珍しい口語体で書かれ、現代に通じる不朽の教えを数多く示唆している。
ただし口語体といっても、初版から百年以上経た現代では、一般の読者にとって、多少の読みにくさは、いなめなかった。そこで今回、執筆にあたり、とくに次の二つの点に留意した。
第一に、これまでの「二宮翁夜話」は、初版以来いずれも「翁曰く」という形式をとっていたが、これを二宮翁自らが語るという一人称形式に改め、「飾らず、つくろわない」現代の語り口調としたことである。
第二には、各章の配列を、現代の経営者向きに、大胆な編み変えをおこなった点である。ご参考までに各話の終わりに、(数字)で、初版の番号を付した。いわば「平成版=二宮翁夜話」の誕生である。
本書によって、「二宮翁夜話」が経営者だけではなく、多くの読者にとって、ぐんと身近かなものになったのではないかと、ひそかに自負している。
これからの企業経営者の進路決定に、本書がいささかの影響を与えることができれば、編著者の望外なよろこびである。
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