うえじゅんの「自腹で試した流行りモノ」 15号

ブームから考察する

「いいものは売れるはず」!?


「落語

ドラマ×正蔵襲名で落語ブーム到来!?

 ミーハーで申し訳ないが落語にはまっている。きっかけは人気ドラマ『タイガー&ドラゴン』ではなく、柳屋小団治師匠とのお出会いだ。

 小団治師匠の名人芸ともいえる落語を間近で聞かせていただいてから、すっかりとりこになってしまったのだ。

 小団治師匠から、林家こぶ平(当時)が「古典落語にのめりこんでいる」と聴き、せっかくの一大イベントだからと襲名披露興行に出かけた。

 上野で行われた襲名披露パレードには15万人近い人が集まり、池袋、新宿、上野の寄席で10日づつ行われた襲名披露興行は、いずれも大入り満員となった。

 この興行、出演者は正蔵も4時間近くで13名。橘家円蔵、春風亭小朝、林家木久蔵、三遊亭円歌、日替りゲストが上方落語の大御所・桂春団治や桂米朝、桂三枝、笑福亭鶴瓶など。これでたった3000円!! 「正蔵襲名をきっかけに、落語界をなんとかしたい」というなみなみならぬ意気込みが感じられた。

 橘家円蔵や三遊亭円歌、林家木久蔵なんて私が小学校のときにテレビでみていた方だ。でも、ぜんぜん古くない。爆笑に次ぐ爆笑。お笑いブームの若手など足元にも及ばないおもしろさだ。



どうすればチケットが買えるの?と詰め寄る客

 一人の持ち時間はトリを務める(主任というそうだ)正蔵以外は15分程度。落語をやる方もいれば、正蔵にちなんだトークをする方もいる。合間には色物といわれる芸達者なギター漫談家や紙切りの芸を見せる方もいる。

 10日ごとに出し物が変わる。10日間は同じ内容。31日は特別興行。一人の持ち時間は、主任以外は15分程度。噺家でも落語を話す場合もトークの場合もある。寄席がこのようなシステムだということをこの公演を見て初めて知った。

 前売券は当然売り切れ。当日券を買うために並んでいると、数多くの通りかがりの人が「どうすればチケットが買えるのか」と係りの人に聞いていた。

 つまり、よほどの落語好き以外の方は、落語や寄席についてご存知ないのだ。

 「襲名披露だけでなく、普段もぜひ、寄席に足を運んでほしい」と出演者の方は皆さんおっしゃった。けれども、そのための工夫がなされているとは思えなかった。



ブームを支える六人会のチャレンジ

 5月31日。『明日の寄席』という「落語をブームで終わらせてたまるか」という意志を持った噺家6人の「六人の会」が主催した新宿・末広亭の特別興行を見た。

 「六人の会」のメンバーは、小朝、鶴瓶、正蔵、昇太、志の輔、人間国宝・柳屋小さんの孫・花緑の6人。落語オンチな私でも知っている噺家だ。

明日の寄席プログラム

『明日の寄席』プログラム。入場時にはハガキ程度の大きさの紙が1枚配られただけ。


 出演者はこの6人の他に、桂歌丸、小遊三、楽太郎、木久蔵、末広亭に27年ぶりの出演という円楽という、これまた私でも知っている方々が、昼と夜の部に分かれて出演。昼、夜ともに各3000円ぽっきり!!お昼12時から夜の9時まで、オールスターの競演を堪能させていただいた。

 この「六人の会」。7月には3日間かけて、銀座のさまざまな小ホール昼から夜まで「大銀座落語祭-上方落語祭2005-」というイベントを行う。http://www.joa.jp/6nin_no_kai/daiginza/ginza_index.html

 これも6人の意気込みと人脈のすごさを感じさせる一大イベントだ。六人の会の小朝と鶴瓶は、「愛・地球博」の特設会場でも落語を披露するという。

 「ドラマがきっかけでもぜんぜんかまわない。なにはともあれ、大勢の方に落語を体験してもらわないことには、寄席に足を運んでもらえない」。そんな気持ちがひしひしと伝わってくる。




横浜「にぎわい座」の地道な活動

 先日、正蔵襲名披露興行や末広亭の特別興行でとりこになってしまった、林家たい平さんの独演会を見に横浜の「にぎわい座」を訪れた。

 『タイガー&ドラゴン』のセットのモデルである末広亭とはえらい違いの近代的なビルだ。

 入場の際には「にぎわい座」で行われる興行のちらしを10枚以上渡された。ちらしの中には「メールで次回以降の公演の案内がほしい方は、連絡先をご記入を」という紙も入っていた。



横浜にぎわい座

10回見ると1回無料で見られる「横浜にぎわい座」のポイントカード。めちゃめちゃベタだけどリピート促進の一手だ。


にぎわい座メールでのご案内

メールやfaxで「横浜にぎわい座」での公演案内をするので、「アドレスを記入して」という用紙。こういうアイデアをクライアントさんに提案すると、「パソコンをお持ちじゃない方もいますから」と躊躇する方が多い。

でも、日本人全員がパソコンを持つことはない。「どうしても情報がほしいと熱い人から情報を提供すればいいのに」とつくづく思う。もったいない。



 休憩時間には、たい平さんのCDの販売。購入者には終演後のサイン会に参加できるという。


 そして、帰りがけには、次の独演会決定の速報ちらしがスタッフによる掛け声とともに手渡された。


たい平次回公演ちらし

公演前のチラシにまぎれてしまわないよう、終演後、配られた、たい平さんの次回「横浜にぎわい座」での公演案内。「次回公演のお知らせです!」と大きな声で案内していたのもすばらしい!!




落語ブーム定着を阻むいくつもの壁

 私は小団治師匠の落語のマクラで「オチが最後にくるから落語」ということを教えていただいた。落語初心者に向けた小団治師匠の心配りだ。そのことで、落語の構成が理解できたことが、落語に入りこむきっかけとなった。

 なんたって、「ヒロシです。自転車のカギでぼくの部屋のカギが開きました」という短絡的なお笑いにしかなじみがないのだ。長い話だと90分後にやっとオチが来る落語は、あらかじめ、オチは最後と学んだから、その後もずっと落ち着いて聞いていられている。

 私が小団治師匠とお目にかかるまでに、生の落語を聞いたのは人生でたった1度だけ。小学校のお楽しみ会で上級生が演じた『じゅげむ』一回きりだ。これじゃほとんど外国人だ。

 つまり、落語ブームを定着させようと思ったら、日本人相手ではなく、初めて日本を訪れた外国人観光客だと思って対応するくらいでちょうどよいのではないだろうか。

 寄席の入り口には、365日24時間、チケットの買い方や今後の興行を張り出す。ちらしなどは営業時間外も持ち帰れるようにする。

 興行の内容にも工夫が必要だ。『明日の寄席』で『目黒のさんま』や『じゅげむ』『時そば』を聞いた。落語に関心を持った人たちに、タイトルは聞いたことがあっても話を知らない。15分ごとに、こんなネタばかりの興行をやってみるのも手だ。

 落語は一言一句決まりきったシナリオがあるわけではなく、噺家さんが自分の持ち味や持ち時間によってアレンジする、いわば、即興ジャズのような要素があることを先日知った。

 ならば、本来、寄席では同じネタがかぶることはご法度だが、同じネタを聴き比べる興行やCDがあっていいのではないか。

 一度聞けば、はまること請け合いな落語だが、新規顧客獲得やリピートのための販促ももっと工夫があっていい。

 いまどき、どんな小劇場の芝居にいっても、週刊誌一冊分ほどのチラシが渡される。映画だって本編が始まる前の20分は次回以降の予告編だ。これらはリピート顧客促進の一手だ。

 中村勘三郎襲名については、テレビでドキュメンタリー番組が放映されたが、正蔵襲名はワイドショーのネタどまりだ。これらは新規顧客獲得でもあり、ごぶさただった休眠顧客へのリピート促進ともいえるだろう。そりゃ、落語協会には予算がないことは否めない。しかし、噺家個人で自力でできることだってあるはずだ。

 テレビで放映してくれないならHPなどで書きつづってもいい。誰の門下生かわかる一表もありだ。

 一回に10人以上が出演する寄席では、誰がどんなネタを話したか混乱する。それで、プログラムにネタやおもしろかった点、採点などをメモしている方がとても多い。ならば、最初から記入がしやすいような形式にしてあげれば、ブログや家族、会社の人に口コミしてもらえるではないか。

 噺家がいわない限り、その日話してくれた落語のタイトルがわからない。ならば、翌日にでも寄席側がタイトルをHPにアップするとか。ならば、お気に入りの落語が入ったCDを聴いてみようかという気にもなる。

 ある寄席で、斜め前に座っていた方が、落語や寄席についてのイロハが書かれた本を読んでいた。「終演してから買おう!」と行ったが、売店が閉まっていた・・・。コンサートやお芝居なら、このときが一番かきいれどきなのに・・・とがっくりしながら家に帰った。

 落語ブーム定着には多くの壁が立ちはだかる。とはいえ、今回の話、落語だけに留まらない。どんなにすばらしい商品でも、時代に沿ってアレンジし、売るための工夫をしなければ、知られないままで終わってしまうという。そんなことをつくづくと学ばせていただいた。





■今回の自腹■

正蔵襲名披露興行3000円×3日分=9000円

新宿・末広亭 特別興行『明日の寄席』昼の部 3000円

新宿・末広亭 特別興行『明日の寄席』夜の部 3000円

横浜・にぎわい座『林家たい平独演会』3000円

立川談慶真打昇進記念興行 3000円

ぴあ落語ワンダーランド(CD付) 2415円

 合計23,415円チーン!。







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