うえじゅんの「自腹で試した流行りモノ」 07号

動物園版プロジェクトX
極貧×超古の日本最北の
動物園が起こした奇跡


「旭山動物園」

えっ?! 北海道にあるのに入場者数、日本一?

 北海道・旭川市に、いま話題の動物園、「旭山動物園」がある。パンダやコアラなどのスター級の動物はいない。広さは日比谷公園ほど。11月から4月末まで雪が降りつもる日本最北の動物園だ。

 ハッキリ言って悪条件の動物園だが、今夏、それまで日本一だった上野動物園の入場者数をついに越したというからまさに驚き。

 入場者数日本一となった秘密は何か?。こういうことを聞きつけるといてもたってもいられなくなる私。さっそく北海道は旭川に飛びたつことに。

 そして、詳しくお話を伺ってみたかったので、旭山動物園の事務吏員・山崎哲夫さんの元を訪れた。


実は、1995年には一度、閉園の危機も…

 旭山動物園の開園は1967年。当時、旭川市民が最も望んでいた待望の動物園だった。その後、ジェットコースターや観覧車などの遊具も設置され地元の人の憩いの場として活用されていた。

 しかし、スター級の動物はいない。遊具も一度乗れば飽きられる。施設は老朽化。そのため、1983年の59万7133人をピークに客足は遠のき、1995年には一時閉園、翌年の入場者数は26万822人まで落ち込んでいた。

 このため、「閉園して福祉施設でも作ったほうがよいのではないか」という声もあがっていたという。

 存続が危ぶまれていた中、動物の魅力にとりつかれていた職員は「動物園をつぶしたくない。どうしたらお客様が増えるか」。連日、頭をつき合わせてアイデアを出し合った。

 そうしてはじめたのが1987年からはじめた「飼育展示係」だ。飼育員は裏方だ。その彼らがお客様の前に出て、動物の生態や特徴、魅力を語り始めたのだ。

 飼育員は国家公務員だ。10名あまりのスタッフのうち、獣医以外の方の前職は旭川空港や学校や市役所など。せいぜい犬や猫くらいしか飼ったことがなった人たちが、お客様の前でヘビを体に巻きつけて熱弁をふるったのだという。

 それでも、入場者数が下げ止まることはなかった。レジャーが多様化していたこと。そして、「動物園は子供が見るもの」というイメージが染み付いていたからだ。


予算がない。だから夢のプランをスケッチに…

 閉園後のミーティングは続いていた。「いったいどんな動物園ならば、自分は行きたいか」。みんなで理想の動物園を語り合った。

 リニューアルのための予算が出るわけでもない。依然閉園の声があがっていたのにだ。そして、このとき出し合った夢のプランを何十枚ものスケッチに書きとめた。

入場者が減り続けていた不遇の時代に、閉園後スタッフが語り合った「夢の動物園」のスケッチ。

このスケッチが、まさに日本一の動物園を実現することに…。下記2枚のスケッチも同様。


 風向きが変わったのは1997年のことだ。開園30周年で何十年かぶりに予算がついた。

 そこで、子供たちに「命の大切さを教えたい。動物とのふれあいの機会を作りたい」との思いからこども牧場を作った。

旭山動物園起死回生のきっかけとなった「こども牧場」。

ヤギ、ウサギ、ヒツジ、アヒル、モルモットなど家畜や実験動物とじかに触れることができる。

ヤギに生まれて初めて干草をあげる。こちらも大人が大喜び。アヒルにかまれたがうれしかった。


 ヤギ、ウサギ、ブタ、ヒツジに直接触ることができる施設だ。すると、リピーターが増え、入場者数が前年を超えた。

 これがきっかけで、夢の動物園のスケッチをひとつづつ実現できるようになったのだ。


動物の魅力を余すところなく見せるための工夫

 「動物園の動物はいつ行っても寝てばかりいる」といわれる。しかし、それは動物の生態を無視して、動物園の都合で見せているからだ。

 一方、旭山動物園では「どうしたら動物たちのイキイキした姿を見せることができるか」に尽力している。

 たとえば、ホッキョクグマが歩く地面には透明の半球状のカプセルが埋め込まれている。ホッキョクグマは氷の間から息継ぎのために頭を出したアザラシを張り手で殺して食べる。このカプセルはアザラシ目線を体験できるコーナーなのだ。

餌食の目線でホッキョクグマをみることができる半円球のカプセル。

地面に丸い半円球のカプセルが設置されているのがお分かりいただけるだろうか…(左上)

そのカプセルの下から上を覗いた図(左下)。まさに餌の状態…。

立ち上がって覗き込めない車椅子の方のために筒型のレンズがしくまれているカプセルもある。


 「ペンギンは海の中を飛ぶ鳥だ」とPOPに書かれていた。これを実感できるのがペンギン館の水中トンネルだ。子供の頃作った基地の通路を歩いている感覚。その通路をペンギンが、水中をビュンビュン泳ぐ様に圧倒される。


 ユキヒョウが寝ているのは高さ2.5メートルほどの檻の中。2匹がくっついて寝ている様子とプニプニした肉球は、まるで大きな猫だ。

ユキヒョウの檻。真下から見上げられるので、プニプニの肉球を見ることもできる。

ちなみにユキヒョウの寝息も聞こえます。


 生態を知っているからこその施設は圧巻だ。オラウータンの遊び場はなんと地上15メートルに張られた綱。 天気のよい暖かい日にはこの綱にぶらさがって遊ぶ。

 ちなみにこの施設、周囲からは「脱走の恐れあり」「落ちたらどうする」と猛反対を受けた施設だ。生態を知らない人だからこそいう批判だ。

オラウータンにはジャンプ力がないため脱走はできない。地上30メートルの木の上で一生を終えるオラウータンが、木から落ちてたらオラウータンをやっていけませんって(笑)


 そもそも、彼らはジャングルでは地上30メートルもの木の上で暮らしている。地面に降りるなんてことは一生のうち一度あるかないか。そのため、通常の動物園の檻の中では地べたの上で、ぐた〜っと、じっとするしかないらしい。

 今年6月に完成。今、最も注目を集めているアザラシ館の円柱型の水槽には、たまちゃんと同じゴマフアザラシが、にょーんと行き来する。これはアザラシが好奇心旺盛であることと縦に泳ぐ習性を活用したものだ。(最上部写真)



スタッフの創意工夫が奇跡を起こした

 マスコミではこうした施設が注目されているが、旭山動物園の真似をしても、依然入場者数が減り続けている動物園の方が圧倒的に多い。

 旭山を日本一にたらしめたのは、なにより「何とか動物の魅力を伝えたい」というスタッフの熱い思いだ。

 たとえば、お昼やおやつ時に設けられている「もぐもぐタイム」。これは動物たちがエサを食べる様子が見られるものだ。

 たとえば、サルがいるガラス面に好物のハチミツを塗る。するとガラス越しにハチミツをなめるするどいキバを間近でみることができるのだ。

 ペンギン館のもぐもぐタイムでは、ダイビングスーツに身を包んだ女性スタッフがペンギンの好物の小魚を水中にばらまく。

 するとビューンと猛スピードでペンギンがさらっていく。と同時に女性はラミネート加工した数枚つづりのフリップを紙芝居のようにめくりながら説明をしてくれる。

ペンギン館の水中トンネル内での「もぐもぐタイム」。ペンギンの好物の小魚をあげながら解説してくれる女性スタッフ。ペンギンの姿は、まさに水中を飛ぶ鳥です!


 旭山動物園にはあらゆるところに手書きPOPが見られる。潤沢に予算がある動物園では立派な造作の看板を用意する。しかし、これでは頻繁に情報を更新することができない。

 一方、旭山動物園の看板は手書きだから、ことあるごとにスタッフが新鮮な情報に書き換える。スタッフ手作りの模型などもあって、とても一日では読みきれない。

館内のいたるところにスタッフによる手造り模型や手書きPOPが。手書きだから、即、新鮮な情報に書き換えることができる。事務方含めてスタッフが14名しかいないため飼育展示係の人手不足を補う役目も果たす。


 ホームページもスタッフによる手作りだ。決してセンスがいいとはいえないが、情報は満載。最低でも週に一度は更新される。

 動物園には夜行性の動物も多い。そこで、夏休みの夜には、昼間には見られない動物たちの夜の顔を見ることができる「夜の動物園」を開園。

 月に一度、土曜日には「動物園裏側探索」ツアーが開催される。獣医でもあり、飼育展示係長でもある副園長、坂東元さんの説明をうかがいながら、動物たちにえさをあげたり、触れたりしながら、バックヤードを見学できるのだ。

 私も参加させていただいたが、やみつきになる楽しさだ。子供よりも大人の方が楽しんでいた。あまりの人気に受付開始から10分あまりで予約がうまる。


リスクをおったから独自の道が開けた

 旭山動物園だけがなぜこれほどまでに魅力ある運営ができるのか。それはすべて自分たち主体でやってきたからではないだろうか。

 動物園のリニューアルや新設のさいには、動物園専門のコンサルタントに、丸投げするのが常だという。だからどこも似たような施設になってしまうのだ。

 しかし、旭山動物園は苦しい時代にみんなで語り合った夢のスケッチがある。予算が出るたびに地元の業者にそのスケッチを見せながら、「こんな姿を見せたい」とディスカションを繰り返した。

 すると、業者の方が「それなら今はこんな技術がある」と、スタッフも思いつかなかったアイデアを提案。こうしたコラボレートから生まれたのがペンギンの館の水中トンネルであり、アザラシ館の円柱型水槽だ。

 その分、リスクも大きい。動物たちにとってよい環境を想定してはいるものの、完成してみるまでは、動物たちがその施設を使ってくれるかはわからない。

 旭川は、冬はマイナス30度まで下がり、夏は30度まで上がる、日本で最も寒暖の差が激しい場所だ。ペンギンの館の水中トンネルはアクリル製だから伸縮する。もし、壊れたら大事故だ。

 地上15メートル上を渡るオラウータンが落下してもだ。そのため、周囲から猛反対された。それでも、小菅正夫園長が「責任は俺がとる」と決断。最終決裁権を持つ旭川市長も熱意に押され承諾した。

 さまざまな努力が実り、旭川市の人口約40万人に対し、入場者数は昨年は82万3896人、今年は9月に100万人を、11月に124万人を突破。夏には一日50組もの企業が見学に訪れ、日本中から見学者が訪れるほどの動物園に伸長。他の動物園に比べ、圧倒的にリピート率が高く、大人が訪れているのが旭山動物園の特徴だ。

 古い。予算がない。スターがいない。ないないづくしでお嘆きの経営者の方は、ぜひ、旭山動物園を訪れてほしい。心を動かされるいくつもの発見ができるはずだから。



■今回の自腹■

 入園料 290円

 交通費とかは勘定に入れてません(笑)

11月3日から3月27日までは、冬期営業で朝11時から午後2時まで開園のため通常の半額。高校生以上はこの料金。中学生以下は無料。
今回参加した月1回開催される「動物園裏側探検」は、なんと参加無料!

お出かけになるお時間がない方は、日曜18時半からTBSでオンエアされる「夢の扉」で、1月に旭山動物園が特集されるのでチェックしてみてください。私がおじゃましたときに、ディレクターが丸2日間もかけてロケハンをしていた力作!

  合計 290円チーン!




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