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出口光の「天命と経営」23

「番外編3:善悪の法則

 人間には、の側面がある。巨視的(きょしてき)に見ると、何が善で何が悪かも見極めるのは難しい。また、経営者自身の中にも、当然にして善と悪があり、その葛藤(かっとう)が起こっている。

 経営の場では、組織が大きければ大きいほど、それが直接、社会に大きな影響を与えることとなる。

 私の曽祖父は「善は100の力を持ち、悪は99の力を持っている。だが悪は常に99の力を出し、通常、善は6、7割の力しか出していない。だから善は負けてしまう。」と言った。

 図1を見てほしい。

 

 これは、潜在的な善と悪の力は拮抗し、わずかに善の力が上回っているが、現実に多くの場面で悪が全力を出すために、善が負けてしまうことを意味している。

 どんな悪も100の善には勝てない。どんな善も100出さなければ悪に勝てない。

 ここでは、それを「善悪の法則」と呼ぼう。

 私の友人に、昔ヤクザをやっていた男がいる。今は更正して立派な経営者になっている。私がこの「善悪の法則」の話をしたときに、彼は「全くその通りだ」と言いながら、次のような話をしてくれた。

 あるとき、背の低い中年の女性が、幼な子を背中にくくりつけ、彼の所属する組事務所に怒鳴り込んできた。

 「あなたの組の若い者たちが、私の店の商品を万引きして、商売が立ち行かない。子供にミルクを買うこともできないのよ!あなたは私の生活を壊し、子供を殺す気なんですか!」と猛然と怒鳴ったのだ。

 その100%全力で立ち向かう母の姿に、彼は「それって反則だ」と思ったという。普通は、ヤクザに対して全力を出す「善」はいないからだ。さらに、「どんな悪にも、1%の善、誠があるんですよ。だから100出されたら勝てないですよ」という。あまりの勢いに、親分は若い者に、絶対に万引きさせないことを約束した。

 こ」のレベルが上がるほどに、悪の力もそれに比例して上がると考えられる。


 経営者は、善の意識レベルが上がれば上がるほど、悪のレベルも上がり、さらに自分を厳しく律する必要が出てくる。なぜなら、悪は常に99の力を出し、通常、善は6、7割の力しか出していないからである。

 また、経営規模が大きくなればなるほど、社会に与える影響は大きい。自動車会社が批判を恐れ、リコールをしなかったり、建設士が耐震偽装を知っていたのに、それを公表しなかったりするニュースは記憶に新しい。社内の善のレベルが下がると、社会に大きな影響を与えてしまう。

 さらには、善と悪がはっきりしない場合もある。例えば、いま全国民に行渡ろうとしている携帯電話やメール、ほとんどの子供が夢中になるパソコンゲームなどは、社会に大きな影響を与え始めている。

 経営者の霊性や意図が、社会的結果に大きな方向性を与えることは間違いない。一歩間違えば大きな社会問題をはらんでいる。

 企業は、コンプライアンス(法令順守)を徹底させるだけでなく、その事業が社会にどのような影響を与えているのかを見極めながら経営する必要がある。そのためには、一人の経営者だけがそれを行うことは、難しい。経営幹部が互いの意識レベルをチェックし、それが振れているときには指摘し、潔斎(けっさい)しあう関係が必要となってくる。

 このような、場としての「良心」ともいえる関係は、これまで「天命と経営」の中で話してきたように、お互いの志を共有する氣脈(きみゃく)と、大局的な観点からの離見の見を持つことで初めて、可能になってくるのではないか。

 社会的な役割を果たすべく、長期的な使命を帯びている現実の経営では、何が「善」で何が「悪」かが、はっきりしない場合がある。

 「善の力を100%発揮する」という単純なことではなく、何が善かを見極める場としても、取締役会や監査役会の重要性が出てくる。

 大善と小善(本当の善と目先の善)も、離見の見で見れば、一目のことが盲目となる場合がある。たとえ、その結果が見通せたとしても実際にそれを実行するには、氣脈的(きみゃくてき)な強い関係が不可欠となるだろう。

 どのような意図や霊性でその事業を行うのかは、大切なことであると同時に、常に事業の生む社会的な結果を真摯に見つめ、軌道修正していかなければならない。この基盤となるのが、経営者や幹部の天命への志であり至誠(しせい)ともいえる。それが判断の基準となりえるはずだ。

 しかしその志は、100:99の法則で常に揺らいでおり、判断を誤る畏(おそ)れがあることを自覚する必要が、私たち経営者にはある。

 このように善悪の法則は、私たち経営者が、どんなに力がついても、意識レベルが高くなっても、自分だけではなく、経営の現場を離見の見で俯瞰(ふかん)しつつ、天命への志から、常に100%全力で仕事に立ち向かわなければ、真に社会に貢献する仕事はできないことを意味している。


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