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出口光の「天命と経営」18号

なぜ社員の良さがわからないのか?

 私たちは、批判や評価の海の中で暮らしている。小さいころから、点数で評価され、優劣の考え方が身に染みてしまう社会構造になっている。もちろん、経営者も社員も例外ではない。

 経営者は、実際の経営の場で、常に社員の評価をしている。自分の物差しに合えば良い社員に思うし、合わなければダメな社員になっている。それは、仕事の数字的評価だけではなく、人のものの考え方や性格にも及んでいる。これには、多かれ少なかれ、あなたにも心当たりがあるだろう。

 同じように、社員もそれぞれ異なる多様な物差しから、あなたと同僚たちを見ている。そのような視点から経営幹部と社員が行動したら、会社の運営はうまく行くはずはない。

 そこで、経営者であるあなたは「相手を受け入れる」ことは、極めて重要なことだと認識し、それに努めてきたに違いない。それでは、「受け容れる」とは、一般に言われているように、人の長所と短所をあるがままに認め、受け入れることなのだろうか。また、人や自分の欠点を欠点として認め、長所を伸ばすことが経営者の道なのだろうか?

 果たして、長所や短所の本質は何だろうか?

 「突拍子も無いことを言う」とあなたは思うかもしれないが、天命を経営に生かすという視点からは、社員の足らないところ、自分の足らないところと思っていることも、実は短所ではないかもしれない。もし長所も短所も、自分の聴き方、世界の見方によって、大きく決定づけられているとしたらどうだろうか。あなたの人生をよく観察してみると、特定の傾向を持った人を批判していないだろうか。

 天命を経営に生かし事業を成功させるためには、これまで16、17話で述べてきた4種の傾聴の強い人たちがバランスよく、あなたの会社に配置され、あなた自身も4つ傾聴力を鍛える必要があるのだ。

 それでは、第18の天命を経営に生かすための質問は、これだ。

「あなたは、いつもどのように人を観ているのだろうか?」

 もしあなたが経営者として、幹部や社員の持つ聴き方、すなわち世の中の見方を知り、そこから相手がどのような世界に住んでいるのかを掴むことができるなら、自分や人の長所や短所に関する革命的な知見を得ることができるだろう。

 図1は、4種の傾聴の強い人たちが、お互いをどのように見ているかを示したものだ。これに従って、読み進めていただきたい。

 ただし、このような分析に対して、あなたは、すぐに読みたくなくなるかもしれない。読み始めて、すぐ拒否反応が出たら、あなたは達成的傾聴か献身的傾聴の強い人である。そのような人にこそ、最後まで読んでほしいのだ。

図1: どのように人を観るのか

 

1.達成的傾聴の強い人(達成族)がしている批判

 私も達成的傾聴の強い世界に住んでいることは既にお話した。とにかく達成に向けて行動することが大切であり、「やってみないとわからない」という言葉が頻繁に出てくる。物事を進化発展させるためには、行動こそが大切なのだという視点から世の中を観ている。ここでは、この達成的傾聴の強い人たちを、便宜上、「達成族」と呼ぼう。

 達成族の経営者にとっては、物事を分析し、あれこれ考える社員(評価族)を見て、「なぜ理屈ばかりで行動しないのか」と批判することになる。これは、達成族が、評価族に下す評価だ。しかし、物事をじっくり考え判断するのは、評価族の特徴であり、最も秀でたところなのだ。つまり、達成族は、評価族の特性を欠点として認識することになるのだ。

 この文章を読んで、「何をくだらない理屈を言っているのだ。読むのは止めて、もう仕事をしよう」という反応が出てきたら、あなたはもう立派な達成族だ。

 献身的傾聴の強い人(献身族)に対しては、「感情で物事を判断するな」、「おせっかいをやくな」と批判的に見てしまう。しかし一方では、達成族にとっては、自分をよく理解し、尽くしてくれる存在が献身族であり、また、献身族にとっては、頼れる存在にもなるのだ。したがって、献身族とは、気が合う同士であることも多く、達成族の周りにしばしば存在することになる。

 達成族の経営者は、ともすれば単独で決断し、周りがついて来ないことがしばしばある。このような経営者にとって、周りの調和を諮り、物事を段取りよく進めてくれる役割を担うのが、親和的傾聴の強い人(親和族)である。達成族は、親和的傾聴能力を高めるだけでなく、特に親和族を身近に置くことが大切なのだ。

 しかし、達成的傾聴の強い人は、親和族に対して、「人に合わせてばかりいる」、「妥協する」、「自分の意見を持っていない」と批判する。4つの傾聴の内で、達成族にとって、最も鍛えることが難しいのが親和的傾聴であり、また、実際、馬が合わないのも、この親和的傾聴なのだ。

 達成族の経営者は、ぜひ自分の周りの幹部から親和族を外していないかを見てほしい。さらには、親和的傾聴能力を身につけるべく、耳を磨いてほしい。



2.親和的傾聴の強い人(親和族)がしている批判

 親和的傾聴をする人(親和族)には、グループの調和や利益が最優先であり、それをいかに実現するかが世界を観る基本になっている。したがって、常に、皆のために役に立っているかという視点から自分や人をフィードバックすることになる。

 したがって、親和族の経営者にとっては、グループの関係よりも個人的な関係を重視する献身族に対しては、「好き嫌いが激しい」、「皆に迷惑をかける」、「ルールや時間を守らない」、「グループの場の雰囲気が読めない」などと批判することになる。しかし、個人のために情熱を注ぐのは献身族の特徴であり、最も秀でたところなのだ。つまり、親和族は、献身族の特徴を欠点として見ていることになる。

 自分なりの美意識にこだわる評価族に対しては、「独りよがり」、「チームワークを考えない」、「言うだけで何もしない」という批判をする傾向にある。ただ、親和族は、こだわりの強い評価族にも相手を尊重し、合わせることができ、評価族は、親和族にとって知恵を貸してくれる存在でもある。したがって、親和族にとっては、評価族とは比較的関係を築きやすいことも事実で、いわゆる仲良しであることが多い。

 この文章を読みながら、「なるほど。なるほど。そういう考え方もあるのか」という反応が出てきたら、あなたは、親和的傾聴の強い人なのかもしれない。

 親和族は、ともすれば調和を重んじ相手に合わせるあまり、決断ができず妥協を重ねてしまい、組織が保守的になり低迷しがちである。このような経営者にとって、勇気を持って物事を前に進める達成族は無くてはならない存在だ。

 しかし、親和族は、達成族に対して、「和を乱す」、「勝手に決める」としばしば批判することになる。しかし、物事を前進させるために行動するのは達成族の特徴であり、もっとも秀でたところであるのだ。つまり、親和族は達成族の特徴を欠点として見ることになるのだ。

 もしあなたが親和族なら、経営幹部が、評価族と親和族に偏っていないかを調べて頂きたい。親和的傾聴の強い経営者にとっては、グループを牽引する達成族が特に必要である。さらには、達成的傾聴能力を磨くことで、物事を多くの人たちと協力しながら、どんどん前に進めていくリーダーとなることができるだろう。



3.献身的傾聴の強い人(献身族)がしている批判

 献身的傾聴の強い人は、「相手を受け容れたいし、自分も受け容れられたい。それが幸せだ」という世界に住み、「好きな人かどうか」、「相手に何をしてあげられるだろうか」という視点から世の中を観ている。したがって、献身族は、グループの中であっても、あくまで一対一の関係が基本であり、特定の人に対してより貢献したいと思うのだ。

 献身的傾聴の強い経営者は、親和族にグループの中の一人として接せられるとその人との関係が薄く感じられ、「日和見的」、「本当は冷たい」、と親和族を評価してしまうのだ。しかし、グループの人たちを公平に扱い、グループの総意を大切にするのは、親和族の特徴であり、最も目立つ特徴なのだ。これは、献身族は、親和族の特性を欠点として評価していることを意味する。

 達成族に対しては、「話を聴いてくれない」、「他に大切なものがある」など、思いやりが足らないと批判をすることになる。ただ、献身族にとっては、達成族とは比較的関係を築きやすいことも事実で、結びつきやすい。なぜなら、献身族にとっては、達成族は頼りになり、守ってくれる存在になるからだ。

 献身的傾聴の強い経営者は、すばらしい人だと想ってしまうと、相手を盲信し仕事を進めてしまうことがしばしばある。このような経営者にとって、物事を冷静に分析して、成否を判断し、段取りを緻密にする評価族は特に大切な存在だ。

 しかし、献身族は、理屈や分析を持ち出す評価族に対しては、「情が薄い」、「理屈っぽい」、「情熱がない」といった風に映り、感情が無く、冷たい人間に感じてしまうのだ。しかし、物事を分析し、結果を予測し合理的に物事を処理するところは評価族の特徴であり、最も優れたところなのだ。つまり、献身族は、評価族の特性を欠点として批判することになるのだ。

 この文章を読みながら、「これは受け容れ難い。理屈では通らないことも人間関係にはあるのだ」という反応が出てきたら、あなたは、献身的傾聴の強い人かもしれない。

 あなたが献身族なら、自分の経営幹部が、献身族や達成族に偏っていないかを調べて頂きたい。献身族にとっては、冷静に物事を判断し、自分の社員や顧客ターゲットに対する愛情を、知的に形にしてくれる評価族が特に、必要だからである。

 さらには、あなたは、自分自身の評価的傾聴力を磨いていくことで、愛情と緻密さを持ち、人を育てることで仕事を大きくするリーダーとなるだろう。



4.評価的傾聴の強い人(評価族)がしている批判

  評価族は、自分なりの美意識やこだわりから世の中を観ている。そして、自分なりのこだわりを貫くマイペースな人生を歩んでいる。したがって、 社員が自分のこだわる基準に達しているかどうかが、物事を評価する物差しとなっているのだ。それ以外のものは、できるだけ関わりたくないと感じるし、また、批判の対象にもなる。

 この文章を読んでいて、「他の考え方もある」とか、「なかなか面白い」という反応が出てきたら、あなたは、評価的傾聴の強い人である。


 評価的傾聴の強い経営者は、達成族に対して、「人の話を聴かず、考えなしで行動する、無鉄砲な人物」と評価している。「成功することしか考えていない」とか「無駄が多い」といった思いが出てくるのである。しかし、一つのことに集中し、それを達成するために行動するのは、達成族の強い特徴であり、評価的傾聴の強い人は、それを欠点と観てしまう傾向があるのだ。

 また、評価的傾聴の強い人は、親和族に対して「優柔不断」、「日和見的で、 没個性」、「一人では何も決められない」と批判することになる。しかし、一方では、親和族は、自分の話をよく聴き、自分の基準にも合わせてくれる存在である。したがって、評価族は、親和族と比較的良い関係を築くことができるのだ。

 評価的傾聴の強い経営者は、ともすれば人を現状の実力で短期的に評価しがちであり、じっくり人を育てるという重要な部分が欠落してしまうことがある。このような経営者にとって、献身族の人に対する想いの強さや愛情は欠かせないものである

 ところが、評価的傾聴の強い人は、献身族に対して「情に流されてばかりで解決が見えない」、「おせっかいで、話がくどい」という評価を下してしまう。しかし、評価的傾聴の強い経営者には、まず鍛えるべき重要な傾聴力は献身的傾聴であるだけでなく、あなたの傍に置くべき大切な人なのだ。しかし、4つの傾聴の内で、評価族にとって最も鍛えることが難しく、また、馬が合わないのもこの献身的傾聴を強く持つ人なのだ。

 もしあなたが評価族なら、自分の経営幹部が、評価族や親和族に偏っていないかを調べて頂きたい。献身族の人に対する愛情や人を育てる情熱が、あなたには特に必要だからである。さらに、自分自身の献身的傾聴力を磨いていくことで、あなたの知恵を形に現し、人を育てることで仕事を大きくしていくリーダーとなるだろう。


 図1をいま一度見てほしい。これは、いかにお互いの特長を、お互いの世界観から批判しているかを示すものだ。


人にはそれぞれの天命があり、それを実行するように、特定の世界観で世の中を観るように動かされている。一人ひとりの果たす役割が違うために、お互いの特長が欠点として映り、お互いを否定することになるのだ。

 この相互批判の構造を、このまま放置すれば、会社の人間関係は冷え、社員の満足が無いことは明らかだ。これは、私たちの社会の悲劇でもある。

 もしあなたが、経営者として幹部や社員の持つ特有の聴き方を知り、そこから相手がどのような世界に住んでいるのかを掴むことができるなら、相手があなたの話をどのように聴き、どのように批判するかの傾向を掴むことができるはずだ。これが、経営者の持つべき離見の見である。


 あなたが相手に感じる欠点そのものが、経営幹部や社員一人ひとりの天命に繋がる特長であり、それを尊敬する関わりを経営幹部と共有できたらどうだろう。さらに、経営幹部もあなたも持つ強い特徴を、欠点と観るのではなく、尊敬すべき特長であると知ることができたらどうだろうか?

 あなたが、経営幹部や家族、友人と会ったときに、「そこが相手の欠点だ」と思うまさにその瞬間を捉えてほしい。それは、あなたがこれまでの人間関係を劇的に変える機会になるからだ。

 私は、評価的傾聴の強い人に仕事を依頼すると、しばしば遭遇することがある。その人は、顔をしかめ、「難しい」と言うのだ。その時、私はムッとするのだ。私はその瞬間を捉え、「難しいと言うな。まずやってみろ」と言う代わりに、「どうしたらできると思う?」と尋ねる。そうすると、驚くべきことに、「こうすれば良い」という解決策を持っているのだ。その時に答えが無ければ、「どうしたらよいか考えてくれないか」と依頼すると、程なく回答が返ってくる。

 私が欠点だと思っている相手の特徴は、「個の花」ともいうべき特長であり、尊重すべきものなのだ。

 経営者が「相手を受け入れる」ことは、人の長所と短所をあるがままに認め、受け入れることではない。長所や短所は、まさに、あなたの評価であり、あなたにとって短所を持つように見える人たちこそ、経営にとって、必要な存在なのだ。

 天命を経営に生かし事業を成功させるためには、4つの傾聴能力の強い人たちがバランスよくあなたの幹部に存在している必要がある。

 ぜひあなたの経営幹部や社員を、4つの傾聴のどれが強いかを分析してほしい。そして、あなたは、自分の周りに、どのような傾聴の人物を置いているのか、どのような偏りがあるのかを、見てほしい。そこからあなたは、自分の「人の見方の偏り」を知ることができるだけでなく、自分の事業にどのような人材を配置すべきかをも、見えてくるだろう。

 さらには、経営者として、あなたも自身も4つの傾聴能力を磨いてほしい。もしこの4つを自由自在に聴き分けることができれば、あなたは、経営者として離見の見を持つことになり、経営は飛躍的に高まることは間違いない。

 「天命と経営」は、そろそろ終わりに近づいてきたようだ。次回からは、人の天命をずばりと掴むまとめに入りたいと思う。

出口 光

 ※出口光氏に質問のある方は、なんでも結構ですので下記にお寄せください。
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