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8出口光の「天命と経営」13号 |
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「社員の究極の動機づけとは?」 |
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前号では、経営者だけではなく、経営幹部や社員の天命を経営に活かす可能性を見てきた。そこには、社員をどう動機付けるのかという根本的な問いが存在している。社員のパワーを引き出すことは、経営者の永遠の課題だ。
天命を経営に活かす第13の問いは、これだ。 「あなたは、社員をどのように動機づけていますか?」 社員は、厳しい競争環境の中で、心が翻弄されないようにするために、感情を殺し、感情の起伏の極めて少ない人間になっていることがある。また、ハードルの高い仕事はできるだけやらないようにして、リスクを避けようとすることも多々ある。 このような状況下で、経営者は、社員のパワーを引き出すために、 しばしば社員の心を扱うことを考える。社員の気持ちを汲み、動機づけを行おうとするのだ。人は心の状態や振幅に大きな影響を受けるからだ。 この考え方の延長線上に、ポジティブ思考をすることによる心のコントロールがある。否定的な考えや感情の一切を排し、常に前向きに物事を考えるべきだというのだ。 このポジティブ思考法を補強するために「あなたの想いは実現する」という論法が未来志向の成功哲学として採用されてきた。あなたが強く願望し具体的なイメージを持つことで、それが現実化するというのだ。 ただ、それは、ポジティブな考えだけではなく、ネガティブな考えにも当てはまる。できるかどうか不安に思うと、物事はうまくいかなくなる。人が不遇な環境になるのは、マイナスに考えたことがそのまま現実化しているという考え方だ。 これは、まさに、ポジティブ思考をしなければ不幸になるという生き方の「不幸の手紙」とも言える。 できるかどうか不安に思ってはいけないというのは、人間にとって極めて不自然だ。人間には、プラスとマイナス両方の感情が、生まれつき備わっている。 ポジティブ思考はマイナスな考えや感情を否定する、究極のネガティブ思考だ。 なぜなら、人間は、喜怒哀楽という感性を生物学的に備えているにもかかわらず、その人間である特性を否定しているからだ。 このポジティブ思考は、経営者に社員のモーティベーションを高めなければならないという考えを生み出す。 ワクワクしたり、希望を与えたり、楽しさを作り出すことで、ポジティブな感情を高めるのだ。楽しさや夢、希望的な感情を作り出すことができれば、社員のやる気も高まるというわけだ。 しかし、心や感情はもともと不安定なものだ。良くなれば必ず悪くなる。どんなに楽しいことも一時的で、続けば、その感情は収まり飽きてくる。 初めはワクワクしても、そのワクワク感は長続きしない。つまり、モーティベーションを高めるやり方をしても、一時的な結果しか出ないのだ。 モーティベーションが下がれば、それは、本当はやりたいことではなかったと いうことになる。そして、次々と楽しいことを探す羽目になるのだ。実際に、このようなことを言う社員をあなたは何度も目にしているだろう。 これは、経営者にも例外ではない。 実際に、自分のやっている仕事に、ワクワクしなくなったとか、疲れたということで、別に興味が移り、新しい事業を興し、今までやってきた事業は中途半端になってしまう人たちも少なくない。 モーティベーションが高い時だけ前進し、下がったなら止めるというのでは、 物事を成し遂げることはできないではないか。 常に楽しくワクワクしなければ ならないとか、マイナス思考を持ってはいけないなどと考える必要は全くない。それは、人間の心の動きであり、ごく自然の状態なのだから。 不安があれば、次には希望という感情も出てくる。逆もまた真なりだ。まさに、人間をしているのだ。心をケアすると悪感情は一時的に消えるが、またすぐ出てくる。一時的に気持ちは良くなるが、すぐ次の心のゴミが出てくる。心だけを扱うことは、人に甘えを作るのではないか。 それでは、心はどう扱えば良いのだろうか? 私は、天命への志から心と関わることがいかに大切かを観察してきた。 天命に志すということは、何があってもそれをやり続けることを意味する。 不安があろうが、苦しかろうが、心がどう動いてもやらなければならないのだ。 この志を実行する過程で、人は心によって振り回され難くなり、次第に、その心の動きを観察することができるようになる。 子供を早くに亡くした女性社員がいた。「子供のことを口にすることすら辛く、誰にも話せなかった。思い出すたびに涙が出てくる。悲しさをなんとか消そうと努力をしたが、うまくいかなかった」。彼女は、自分の心を コントロールしようとすることで、だんだん自己表現が消えていった。 そのような葛藤を経ながら、あるとき、この女性社員は、社長から「あなたの人生の目的は人を育てることではないか。普段の仕事ぶりを見ていても、常に、人の成長を促すような行動をしている」と言われたのだ。 もちろん、簡単に志すことができたわけでない、行きつ戻りつ、心に揺り動かされながらも、自分の志に次第に、立ち戻ることができるようになったのだ。天命への志が羅針盤の役目を果たすようになったのだ。 また、子供を失った悲しさは無くなったわけではないが、しばしば子供と共にいるという体験が顕れ、悲しさを超えて、人の命の貴さや愛情が顕れ、それが仕事に表現されるようになった。 このプロセスは難しいことだが、もし天命への志から心の動きに関わり続けるなら、ついには苦しさや悲哀も味わうことができるようになる。なぜなら、あなたには、常に不動のものが存在し、それを見失わず、共にいることができるからだ。それは心が豊かになるということでもあるのだ。 心はポジティブでなければならないとか、いつもモーティベーションが高く、 ワクワク楽しくなければならないというのは、人間であることを否定することだ。「離見の見」で人生を観るということは、自分の天命から自分の心の動きと関わり、人の天命を見抜き、そこから人の心と関わることに他ならない。 それでは、経営者として、社員一人ひとりの天命と関わるにはどうしたらよいのだろうか? それは、次号を待ってほしい。 出口 光 |
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