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出口光の「天命と経営」 12号

個人の天命と会社の使命の葛藤

 これまで、私たちは、経営者個人の天命を探求してきた。 本当は、自分は何をやりたいのか、また、何をやるべきなのか?これが明確になれば、経営者の志そのものの表現が会社の使命となり得る。 これから、私たちは自分の人生だけではなく、人の人生をどのように観ていくのかという領域に入っていこう。 そのことで、さらに、効果的な経営や人間関係を構築できる可能性があるのだ。

 多くの経営者は、社員を能力があるかどうか、結果をだせるか、優秀かどうか、技術を持っているか、自分に忠実かどうか、というふう見ている。 このような観点からは、社員は、労働を提供し、生活費を稼ぐという選択肢しかない。これが資本主義の原則に則った現実とも言える。

 経営者に天命があるように、社員一人ひとりにもそれぞれの天命がある。そのように考えると、単に社員を労働力としてだけ見ることはできない。天命を経営に活かすことに取り組むには、社長の決意が必要だ。

 経営者の天命を探求する第12番目の質問は、これだ。

「あなたの事業の使命と社員個人の人生の目的は、一致していますか?」

 この質問に関してしばしば問題となるのが、社員一人ひとりの目的と会社の使命が同一線上に無いということだ。 この不一致を解消するために、伝統的に  二つのアプローチが行われてきた。

 ひとつは、経営者があらゆる機会を捉えて、会社の使命を社員に話し続けるというアプローチだ。

 ただ、社長がいくら会社の使命や理念をすっぱく言っても、 社員の多くはそれを無視し、意気が上がらない会社はいくらでもある。そのような会社では、退職率も高まる。 なぜなら 社長が想う使命と社員個人の考えている目的が異なる、 あるいは、社員の人生の目的が明確に定まっていないからである。

 苦肉の策として、会社における社員の公的使命とプライベートな目的を区別し、会社の使命を果たすように告げられる。 社員には、「会社の使命を果たす ことで、キャリアを積むことができ、経済的に潤い、結果として社員の個人の目的が達せられる」という論理が使われてきたのだ。

 もうひとつのアプローチは、経営幹部が協力して会社の使命や理念を創り上げることだ

 経営幹部が会社の使命を十分議論し、共有することで、社員に伝わり、会社が向かうべき方向性が共有されていく。 その過程で、一人ひとりが自己表現をし、コミュニケーションがよくなり、会社が活性化し、すばらしい結果を出すことになるというのだ。実際に、そのことで業績が上がっている会社もある。 しかしそこでも個人の人生の目的や天命は扱われない。

 私は、会社の使命を幹部の考えを最大公約数としてまとめるというのは、結局は、経営に責任を持つ経営者の天命を損なうことになるのではないかと考える。それは、経営者の想いが事業に十分表現されず、源泉を失いありきたりのビジネスになってしまう可能性があるからだ。

 このアプローチも、やはり個人の目的と会社の使命は別ものであり、パブリックな使命を共有し遂行することで会社の業績が良くなり、経済的、時間的な余裕ができ、個人のやりたいことが実現するという論理には変わりはない。

 この考え方を延長すると、 「労働は苦であり、経済的に成功して早く仕事からリタイヤし、悠々自適な生活をする」という欧米流の発想に繋がることになる。このような考え方に、幹部や社員の力を最大限に引き出し、人生の満足を引き出すことができるのだろうか?

 私たちはこの「天命と経営」の中で、全ての人には本来やるべきことがあり、 それを形にして生きる、つまり、志に生きることの凄さを観てきた。自分の霊性を形にして生きることで、経営者と社員の天命を、経営の中に生かすことができないだろうか? 言い換えれば、もし会社に使命があり、そこにいる経営者や社員の天命が一人ひとり異なるものであっても、すばらしい経営ができるとしたらどうだろうか?

 それなら、経営者と社員の公と私を区別する必要もなくなる。もしこれが可能なら、経営者と社員の底力が発揮され、人生に満足をもたらすことになる。

 あなたは「自分の天命はまだしも社員の天命を扱うなど、現実は不可能だ」と思うかもしれない。確かに困難は百も承知だ。自分だけではなく社員もという覚悟をすることで、やっと幹部クラスにあなたの想いが届くだろう。

 私の友人の経営する会社は、100名の情報技術者を抱えている。それぞれの主張が強く、会社の進むべき方向ややるべき事項を、全体会議で何度も話し合ったが、それはなかなか実行されず、誰も責任を取っているように思えなかった。 そこで、幹部クラスに自分の担当する仕事のプレゼンテーションを創るように指示し、その発表会を行った。そこには、これまでの会社の公式プレゼンテーションの内容とは異なり、一人ひとりの個人的な想いが表現され、しかも会社の使命と整合性のある内容だったのだ。

 その後、プレゼンテーションを行った経営幹部たちの仕事ぶりや責任の持ち方に大きな変化が見られたというのだ。これは、社員のそれぞれの個人的な想いから会社の使命と関わることが可能であることを示している。

この命題に挑戦するために、
 天命を経営に活かす、具体的でかつ易しくないステップを観てみよう。

 先ず、第一のステップは、経営者が自らの天命を明らかにすることだ。

 これまで、「天命と経営」(第8−11話)で述べてきた人生の統合を行うことで、 自分の人生からそれを導き出すことが可能だ。

 さらに、第二ステップとして、社員一人ひとりの人生の目的を、共に話し合い、 明らかにする。

 経営者に天命があるのと同様に、社員個人にもそれぞれの天命がある。 その 信念から、まず経営幹部の本当にやりたいことを、つまり志を、経営者が明確にする機会を設けることだ。

 必要なことは、幹部が人生で何を求めているのかを経営者が掴むことなのだ。
 まず、行動に関して、幹部には、「人生における志は何か?」「人生をかけてやりたいことは何か?」と問うことで、その人生を貫く不動のものを「動詞」として見抜くことができる。 例えば、変革する、開拓する、挑戦する、和する、癒す、育てる、応援する、解決する、造る、創作する、分析する、などだ。(詳細は第11話参照)

図1を見てほしい。

(図1)幹部の目的の探求

 経営者は幹部クラスの一人ひとりと、「人生における志は何か?」「人生をかけてやりたいことは何か?」と問うことで、人生の目的を共に話し合い共有する機会を得ることができる。経営者が覚悟して話し合うことで、それらが進化し、志にまで高めることは可能になるのだ。

 最終ステップは、それらの目的が会社の使命とどう関わるのかを考え、自分の人生の目的から、会社の使命と関わる具体的な方法を見つけ出すことだ

 経営幹部の一人ひとりの人生の目的が明らかになり、そこから会社の使命とどう関わるのかを話し合うことができれば、 社員にも会社にも大きな違いを創ることができる。

 人生を「変革する」という天命から生きてきた人がいるとしよう。人生を振り返ると、中学時代には野球部に入り、その中で徹底的に練習方法を変革した。 高校時代には、生徒会の役員となり、守るべきルールを全面的に見直し、改正をした。 このような人生を語る社員に、「あなたのその変革すると言う天命をこの  会社で、どのように発揮できるか?」と問うべきである。

 そのことで、幹部は、自分の志を会社の中で、掴むことができるならどうだろう。それが天命を経営に生かす経営者の関り方である。経営者が幹部とそのような会話をすれば、幹部は自立した人間として、会社の使命に本気で関わるようになるだろう。次には、幹部が社員の間でそのような会話ができればすごいことだ。

 図2を見てほしい。

(図2)会社の使命と個人の目的の融合

 これは会社の使命という枠組みの中に、幹部一人ひとりの天命が含まれている。この枠組みに留まる限りは、会社の中で活躍できる。もしそこからはみ出るほど優秀な幹部なら、会社を離れることになるだろう。しかし、会社の使命が十分に大きくなれば、優秀な人間も含むことができ、その天命を 発揮して仕事が発展することになる。

 このようにして、あなたは幹部の本質的な志を事業に含むことができるかも  しれない。 これは易しいことではないが、私達は、このプロセスを多くの人たちと共有し、明らかに人生に違いがあることを観察してきた。困難であればあるほど、 できたときの実りは大きいのだ。

 経営者と幹部の本当にやりたいこと、つまり天命への志から、会社の使命と  関わり、それを実行できるなら、どのような経営、どのような事業ができあがるのだろうか? 生活費のために会社で働き、別に人生の目的を持ちながらそれを実現できないと感じている経営幹部や社員と、自分の真にやりたいことを自分の天職として生きる社員と、あなたはどちらの人たちと共に人生を生きたいだろうか?

                                          出口 光
日本経営合理化協会 出版局 TEL:03-3293-0041