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出口光の「天命と経営」 8号



過去の経験を人生のパワーにする

           

 前号では、経営者が天命と関わる究極の選択肢として、「自分の中にある天命を明らかにし、それに志して生きる」過程こそが人生の成功である可能性を探求してきた。

 今回は、いよいよ自分の天命を導き出す「人生の統合」に関する探求に、あなたと共に、入って行きたいと思う。そのステップは2つある。まず、第一ステップは、自分の人生の過去の肯定を行うことであり、そのために前号、「第7の問い」をもう一度あなたに、問う。

 「あなたは、自分の過去の人生で何を否定しているのか?」

 私たちの過去には、いろいろな経験かある。人生を振り返ると、すばらしい経験もあったが、思い出したくない経験もある。どんな人にでも、何かしら否定している過去があるはずだ。

 あなたが普段は意識していなくても、過去の経験の中で否定をしていることが、あなたの人生や経営の独自性や活力を奪っているとしたらどうだろうか?
 

 あるIT関係の経営者が私にこういって自己紹介した。

 「家が貧しく大学にも行けず、父親も酒好きで、もう本当にひどい人生でした。ようやく就職したと思ったら、その会社は売上至上主義で、これも最悪だった。だから、この会社は、私の履歴には載せていません。今の仕事を始めてから、ようやく私の人生は良くなりました。過去は忘れて、今は前向きに頑張っています。」

 肯定しているのは、今の仕事だけ。それ以前の経験はマイナスで、今の仕事のエネルギーになっていない。精力的なのだが、なにか薄っぺらな人生を感じてしまい、共に仕事をする氣がしなかった。

 私たちには、自分の父親や母親との関係、大学に行けなかったこと、職業を何度も変えたこと、離婚したこと、生い立ち、さまざまな否定がある。

 もしその否定していることそのものが、あなたの「天の使命」を見失わせ、経営や人生にパワーを失わせているとしたらどうだろうか?

 逆に、自分の過去にある否定を、受け入れ自分のエネルギーに変換できたらどうだろうか?

 私は、香港のバーで、ファションの世界企業を買収した中国人の社長に彼の人生を聞いたことがある。

 「私の家は貧しく大学に行けなかった。おかげで私は、ストリート(町中という大学)で勉強し育てられたのだ。中学を卒業して縫製工場に入って、激しいノルマの中でとことん鍛えられた。そして、小さな縫製工場を創り、ついには、このブランドを持つ会社を買収できたのだ。私の周りの様々な人たち、環境が私の先生だった。私はストリート大学で学べたことを本当に感謝しているんだ」。

 この偉大な中国人は、初めから自分の人生を丸ごと肯定していたとは思わない。むしろ、最初は自分の環境を恨んでいたことを推察できる。

 私は多くの人の人生に関わる過程の中で、仕事が繁栄・発展していく人たちが、次第に、自分の過去を肯定するようになったことを観てきた。

 過去に起こったことは、変えることはできない。しかし、その否定している過去との関り方は、変えることができる。図1と2を見てほしい。過去を否定している人のパワーは小さい。しかし、過去を丸ごと肯定している人は、先の中国人のように過去の経験を全て今のパワーとすることができるのだ。





 過去を振り返ると、感動したこと、楽しかったこと、失敗、苦いこと、辛かったこと、思い出したくないこと、さまざまな経験があった。そんな経験をひっくるめて、自分の人生を肯定できる経営者には、とてつもないパワーが宿る。

 ただ、誤解しないで欲しい。私は、過去の辛苦をプラス思考で解釈し直そうとありきたりのことを言っているのではない。

 過去に起こった全てがあるから、今の自分があるという洞察は、天命を見出す最初のステップに過ぎない。自分の過去の人生の肯定は、その中に一貫性を見出すところまで高められてこそ、あなたの天命と直接繋がることになるのだ。

 過去を肯定したところからくる第二のステップは、自分の過去を統合することであり、そのための第八の問いは、これだ。


「あなたの過去の人生を通して貫くものは何か?」

 私の友人に教育会社を経営し、経営者のコーチングや研修の仕事をして全国を飛び歩いている男がいる。彼は、過去に28種の職業を経験していた。

 彼にとっていくつも仕事を変えたことは、もちろん言いたくないことだった。

 「出口さん、職業をこんなに変えると自分でも忍耐が無いように思える。それもいまの自分を創っていると受け入れることはできるようになったが、20以上も仕事を変えているので、自分の人生には一貫性があるとは、とても思えない」と彼は言った。

 そんな彼に、私は「いや必ず一貫したものがある。いろんな職業経験を通じて、何か共通しているものがあるはずだから、見てみよう」と言ったのだ。

 「そう言えば、いろんな職場を経験したけど、どの職場でも人から相談されていたなあ。職場の人たちから相談されるだけでなくて、社長やそれから家族の人からも相談を受け、アドバイスをすることがしばしばあったよ。そうか、いまも同じようなことやっているよな。経営者の相談を受け、コーチングをやっているのだから。」

 私の友人は、あらゆる職業の人たち、しかも従業員、経営者、家族のことを知る機会に恵まれていたことになる。どこに行っても、どの職場でも私の友人はどういうわけか、相談される立場にあったのだ。その多様な経験があったからこそ、今いろんな幅広いビジネスで、経営者をコーチできる、しかも、家族や従業員の立場さえも含めた彼独特のコーチングスタイルができているのだ。

 さらに、彼の幼少時代の中にも、「小さい頃、母親が近所の子供達を家に呼んでは、いつも遊ばせていた。多くの子供がいたお陰で、自分のおやつの取り分も少なく、母親を恨めしく思っていた。しかし、思い返してみると、自分は、広い愛情を持った母親のお陰で、家にくる近所の子供達の世話をし、いろんな相談に乗っていた。なんと、自分の人生は、人の相談を受けアドバイスをすることで、一貫しているじゃないか!」。

 いまでは、私の友人は、自分の人生の出来事を肯定するだけではなく、その中から一貫した天命とも言える不動のものを人生から導き出し、それが、彼に強いエネルギーを与えている。

 あなたにも、必ず自分の人生の中から、一貫したものを抽出することができる。そうすれば、過去の出来事を繋ぐ一本の柱とも言うべき抽象が出てくるだろう。

 それが、あなたに与えられた天命かもしれない。しかも、気付いていないだけで、既に人生の中で、終始一貫、実行されて続けているのだ。もし、あなたが、それに気付き、受け入れ、志したとき、体の中から底知れぬエネルギーが溢れ出てくるだろう。

  気付いてそれに志し実行するのと、気付かないで実行するのと、どちらがパワーがあるだろうか。

自分の過去の統合からくる志ほど、あなたにエネルギーを与えるものはないのだ。
 

 日本人は、伝統的に先祖を重んじる。これは、子孫にエネルギーを与える民族の智慧だと言える。どれだけ自分の過去を肯定できるか。自分の人生の生い立ちや出来事だけではなく、自分の祖先まで肯定し統合できるなら、あなたの大きなエネルギー源となるだろう。

 あなたが人前に立ったとき、実は、あなたの姿には、人生そのものが顕れていている。

 同じことを話していても、パワーのある人とパワーのない人がいる。さわやかな感じや、気骨を感じるひともいれば、なにか違和感を与えるひともいる。よく仕草や言葉使いから相手の心理を読むと言われるが、そんな生易しいものではない。人前に立ったときに、あなたの人生の全てが、実は現れているのだ。

 人にはどんな可能性でもあるのではなく、その人、固有の可能性がある。人にはそれぞれ持っている個性や能力があり、それぞれ別の人生の経験がある。

 その過去の人生の中に、一貫したものを見出すとき、その中にあなたの天命が見えてくるのだ。

 経営者であれば、天命に志した経営に歩み始めた時、天命が経営の中に顕れ始める。

 即ち、あなたが、魂から溢れだす本来やるべきことに志し、それを現実の事業に形として顕し始めたとき、それは、あなたにしかできない独自性を帯びた事業になっていくことは間違いない。次号は、あなたと人生の統合をさらに深めていきたい。

                          

                          出口 光

 
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