過去を振り返ると、感動したこと、楽しかったこと、失敗、苦いこと、辛かったこと、思い出したくないこと、さまざまな経験があった。そんな経験をひっくるめて、自分の人生を肯定できる経営者には、とてつもないパワーが宿る。
ただ、誤解しないで欲しい。私は、過去の辛苦をプラス思考で解釈し直そうとありきたりのことを言っているのではない。
過去に起こった全てがあるから、今の自分があるという洞察は、天命を見出す最初のステップに過ぎない。自分の過去の人生の肯定は、その中に一貫性を見出すところまで高められてこそ、あなたの天命と直接繋がることになるのだ。
過去を肯定したところからくる第二のステップは、自分の過去を統合することであり、そのための第八の問いは、これだ。
私の友人に教育会社を経営し、経営者のコーチングや研修の仕事をして全国を飛び歩いている男がいる。彼は、過去に28種の職業を経験していた。
彼にとっていくつも仕事を変えたことは、もちろん言いたくないことだった。
「出口さん、職業をこんなに変えると自分でも忍耐が無いように思える。それもいまの自分を創っていると受け入れることはできるようになったが、20以上も仕事を変えているので、自分の人生には一貫性があるとは、とても思えない」と彼は言った。
そんな彼に、私は「いや必ず一貫したものがある。いろんな職業経験を通じて、何か共通しているものがあるはずだから、見てみよう」と言ったのだ。
「そう言えば、いろんな職場を経験したけど、どの職場でも人から相談されていたなあ。職場の人たちから相談されるだけでなくて、社長やそれから家族の人からも相談を受け、アドバイスをすることがしばしばあったよ。そうか、いまも同じようなことやっているよな。経営者の相談を受け、コーチングをやっているのだから。」
私の友人は、あらゆる職業の人たち、しかも従業員、経営者、家族のことを知る機会に恵まれていたことになる。どこに行っても、どの職場でも私の友人はどういうわけか、相談される立場にあったのだ。その多様な経験があったからこそ、今いろんな幅広いビジネスで、経営者をコーチできる、しかも、家族や従業員の立場さえも含めた彼独特のコーチングスタイルができているのだ。
さらに、彼の幼少時代の中にも、「小さい頃、母親が近所の子供達を家に呼んでは、いつも遊ばせていた。多くの子供がいたお陰で、自分のおやつの取り分も少なく、母親を恨めしく思っていた。しかし、思い返してみると、自分は、広い愛情を持った母親のお陰で、家にくる近所の子供達の世話をし、いろんな相談に乗っていた。なんと、自分の人生は、人の相談を受けアドバイスをすることで、一貫しているじゃないか!」。
いまでは、私の友人は、自分の人生の出来事を肯定するだけではなく、その中から一貫した天命とも言える不動のものを人生から導き出し、それが、彼に強いエネルギーを与えている。
あなたにも、必ず自分の人生の中から、一貫したものを抽出することができる。そうすれば、過去の出来事を繋ぐ一本の柱とも言うべき抽象が出てくるだろう。
それが、あなたに与えられた天命かもしれない。しかも、気付いていないだけで、既に人生の中で、終始一貫、実行されて続けているのだ。もし、あなたが、それに気付き、受け入れ、志したとき、体の中から底知れぬエネルギーが溢れ出てくるだろう。
気付いてそれに志し実行するのと、気付かないで実行するのと、どちらがパワーがあるだろうか。
自分の過去の統合からくる志ほど、あなたにエネルギーを与えるものはないのだ。
日本人は、伝統的に先祖を重んじる。これは、子孫にエネルギーを与える民族の智慧だと言える。どれだけ自分の過去を肯定できるか。自分の人生の生い立ちや出来事だけではなく、自分の祖先まで肯定し統合できるなら、あなたの大きなエネルギー源となるだろう。
あなたが人前に立ったとき、実は、あなたの姿には、人生そのものが顕れていている。
同じことを話していても、パワーのある人とパワーのない人がいる。さわやかな感じや、気骨を感じるひともいれば、なにか違和感を与えるひともいる。よく仕草や言葉使いから相手の心理を読むと言われるが、そんな生易しいものではない。人前に立ったときに、あなたの人生の全てが、実は現れているのだ。
人にはどんな可能性でもあるのではなく、その人、固有の可能性がある。人にはそれぞれ持っている個性や能力があり、それぞれ別の人生の経験がある。
その過去の人生の中に、一貫したものを見出すとき、その中にあなたの天命が見えてくるのだ。
経営者であれば、天命に志した経営に歩み始めた時、天命が経営の中に顕れ始める。
即ち、あなたが、魂から溢れだす本来やるべきことに志し、それを現実の事業に形として顕し始めたとき、それは、あなたにしかできない独自性を帯びた事業になっていくことは間違いない。次号は、あなたと人生の統合をさらに深めていきたい。