社長のための “価値づくり”100話 88

顧客を魅了した些細なアイディア



●顧客の名前に線を引く?

 
お取引先とのミーティング中に、とても興味深い話を聞きました。早野商事という名の企業が展開する外食チェーンの波奈グループのひとつで、「かつ波奈」というとんかつ専門店をご家族で利用した時の話です。

 一般的にファミリーレストランなどの飲食店が満席の場合、ウェイティングリストに名前を書き、順番が来ると担当者が順番待ちの顧客の名前を呼び、席に案内します。
 この時、ウェイティングリストに記載された顧客の名前には、無造作に線が引かれます。席に案内した顧客と、順番待ちの顧客を識別するためです。しかしこの店では、そうはしなかったそうです。

 顧客の名前に無造作に線を引く代わりに、感謝と彫られた印鑑を押して案内したそうです。またファミリー顧客の利用を意識して、小さな子供への接し方も親切で笑顔でもてなしてくれるそうです。
 何気ない対応ですが、外国にあるどんなサービス業でも、ウェイティングリストに感謝の印鑑を押す企業など見たことはありません。しかもその価値を理解する顧客が存在したことにも、嬉しく思いました。


● 笑いながら、仕事をするな?

 その一方で困った顧客がいる話を、外資系ホテルの総支配人から直接聞きました。日本のホテルと違い外資系ハイエンドホテルの売り物は、何といってもスタッフたちの輝く笑顔による接客です。笑顔でもてなされることが快適だから、顧客は価値があると評価して利用しています。

 ところがある男性顧客は笑顔で対応するフタッフに、「笑いながら、仕事をするな。男らしくしろ」と口にしたそうです。日系資本のホテルに対して、「サービスレベルは非常に高いのですが、スタッフたちに笑顔が少なく、楽しそうに仕事をしている人が少ない」と、ザ・リッツ・カールトンの前経営者が指摘し、日本に参入しても勝算があると判断した話があります。
 この苦言を呈した顧客は、恐らく日系ホテルの経験しかなく、スタッフから“かしずかれる”ことがサービスだと思い込んでいる人であることは想像できますが、スタッフはこの言葉に、きっと傷ついたと思います。狭い経験に基づく誤った顧客の苦言が、ホテルマンたちから笑顔を奪うことを残念に思います。

 日本ではサービス業の競争が激しく、商品力による優位性づくりが熱心に行われています。またアメリカなどと比較すると、どの企業も平均してサービスレベルの最低基準は高く、顧客が接客で不満を感じることはあまりありません。

 しかし顧客単価が上がるにつれて、日本のサービス業はその企業にしか発揮できないサービスを提供することに苦労しています。それはどの顧客を相手にビジネスすればいいのか、明確になっていないからです。



経営者の価値作り・・・成功する経営者は、違いのわかる顧客を相手に、収益に繋がるサービスを開発して自社のブランド価値を向上する。




酒井光雄




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