社長のための “価値づくり” 119

酒田市に誇りをもたらした一冊の書籍




●魅力を備えた街は、国内に数多くあるのに…

 
人口が三大都市圏に集中し、その分、地方にある都市や街は元気がないように見えます。
 若者たちが都市に流出するのは、大学を始めとする学校と働く場所となる企業の数に大きな差が出ているからです。
 また、マスメディアが伝える情報は、テレビのキー局や全国紙の本社が大都市にありますから、地方の情報は限られ、ニュースに紹介されても刑事事件ばかりのようにも見えます。

 では大都市以外の街に魅力がないかと言えばそうではありません。
 私は仕事で全国を訪れる機会に恵まれていますから、その街にはその場所にしかない魅力があることを知るひとりです。
 ただその魅力に地元の人たちが気付いているかといえば、そうではないケースがほとんどです。



●専門家も及ばない才覚

 山形県酒田市は人口がおよそ10万人の街です。
 この街に、現在の東京にもない洒落た映画館と、写真家土門拳や作家の開高健、丸谷才一、山口瞳、落語家の古今亭志ん朝、映画評論家の淀川長治など各界の著名人たちに最高の料理だと言わせごひいきにさせたフランス料理店を2店オープン(現在も営業中です)させた男がいました。
 この人物を紹介する一冊の書籍が刊行されました。
 「世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか」(岡田芳郎著 講談社刊)という書籍です。

 清酒「初孫」を醸造し商工会議所会頭を歴任する佐藤家に生まれた主人公の佐藤久一は、戦後間もない昭和24年に父親が始めた「グリーンハウス」という名の映画館に、20歳という若さで支配人になったところから、物語が始まります。

 当時限られたホテルにしかなかった「回転ドア」の入り口。
 白髪の元ダンス講師が正装して出迎える接客係。
 女性客を集客するために考案され、その床に座ってお弁当を食べる人がいるほどの「女性用トイレ」。喫煙や食事をしながら観賞できる「新特別室」や「御家族室」。
 夜の最終回終了後に無料で市内を巡回する30人乗りのシボレー製大型バスの「グリーンカー」。
 そして館内にブティックをつくるといった施策を次々と考案し、淀川長治と週刊朝日に「港町の世界一デラックスな映画館」と言わせた所です。

 また佐藤久一は「欅(けやき)」と「ル・ポットフー」という現在も営業を続けるフランス料理店を取り仕切り、時代を動かしていた当時の実力者たちに酒田という地を注目させることになった人物でもあります。

 私はこの一冊の書籍が、山形と酒田に暮らす人たちに、この地にこれほどまで卓越した人材が存在し、日本中から注目されたという事実を知って、改めて郷里への自信と誇りを取り戻すことになったと思います。
 私自身、どうすれば人を魅了するブランド価値が生み出せるのかを、改めて学ぶことができました。
 志を持ち、顧客を魅了する施策を実行することが、ブランドという価値を生み出すことを、この書籍は教えてくれます。

 偶然ですが、著者の岡田芳郎さんとは、酒井にとって恩師であり年上の大切な友人でもあります。
 岡田さんは元電通マンで、映画や音楽、そして演劇にも造詣が深く、詩人として何冊も書籍を刊行してきた魅力的な人です。

経営者の価値作り・・・できない理由を探すのではなく、どうすれば実現できるかを考え、実行する人だけが、ブランド価値を創造できる。




酒井光雄




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