「地方企業の成長策」 09号

「 自社の売りモノ」を磨き,チャンスを呼び込め!


● 「これから」に勝つ、新しい仕組み。

 今や,野球やサッカーなどの団体スポーツはもとより、個人スポーツの世界でも,競争に勝つためにプロジェクトチームが活躍し,裏で支えているのをご存知でしょうか。

 どんなに優秀な選手であっても,世界のトップに立ち続けるには選手本人の努力だけでは難しい時代になっています。実は,裏で技術コーチ,体をケアーするトレーナー、メンタルな面のカウンセラー、栄養管理、戦略・戦術のプロ等々の一流専門家が介在し、更に全体を取りまとめ、資金から販促活動、スケジュール管理まで行うマネージメント会社がプロジェクトチームを設けて取り組んでいるんです。

 この塾の最初に触れたように、ビジネスの世界でも団体戦の仕組みが崩壊し、「自由競争」を選択したところから、各企業がそれぞれ自立し、自らの力で競争に打ち勝っていかなければならない状況に立たされているわけで、いわば各企業がプロスポーツ選手と同じような立場にあるのです。

 従って、より厳しくなる市場環境の中で勝ち抜くには,必然的にプロスポーツの世界と同様に、いろいろな専門情報、ノウハウ、技術、サービスを提供する企業、専門家の力を束ね、力を発揮するための「新しい仕組み」、「新しい取り組み方」を編み出す必要に迫られているのです。

 特に、中小企業の場合はただでさえ経営資源が不足しているため、「自社の売りモノ」を生かし、事業を継続、成長させる為にも、新しい選択が求められています。

 自らが中心となって、「新しい仕組み」を作り上げていくか、新しく生まれてくる「仕組み」の中で「自社の売りモノ」を生かすか。いずれのケースであっても、より良い選択、ビジネスチャンスを拡大するために、先ずはやらなければならないのが「自社の売りモノ」を磨き上げて、より目立つ存在になることです。



● イタリアのブランドビジネスに学ぶ「新しい仕組み」づくり。

 日本によく似ていて、中小・零細企業が多く集まる国、イタリアは、今も我が国と同様いろいろな問題を抱えていますが、そんな中でも皆さんお馴染みの多くの世界的な高級ブランドの開発に成功しています。

 私も仕事でイタリアを何度か訪問した際に目にしていたのは、高級ブランドのネクタイが小さな村の工場で手縫いのミシンでつくられている姿でした。

 後で学んだのですが、イタリアはもともと高級ブランドが存在していた訳ではなく、1950年代以降北イタリアを中心に戦略的に作り上げてきたもので、自国の「売りモノ」である、匠の技と感性、文化を生かし、工業生産システムとを組み合わせ、合理性のみでつくられたものでは満たすことの出来ない「心を満たしてくれる」商品づくりを独自の仕組みを通して実現しているのです。

 (イタリアのブランドビジネスに関しての参考文献:「イタリア式ブランドビジネスの育て方」、小林 元著 日経BP社)

 実は,私も早くからイタリア独自の中小,零細企業の力を生かして世界ブランドのマーケティングに成功している仕組み(分業による共生システム)に大変興味を持ち、どのような構造で実現しているのかを探っていた時、10年近く前だったと思いますが「日経ビジネス」のイタリア産業特集の記事で実体を知りました。

 記事には、アパレルの世界だけかと思っていた中小、零細企業を生かす独自の仕組みは、食品や自動車、その他の業界でも生かされているのを知り、その時この方式は日本でも使えるぞ、と咄嗟に思いました。

 そして、以前にもご紹介した「餅は餅屋のネットワークシステム」を企画し、日本で唯一の飲食店向けのデザート専門の企画/開発、販売会社を起業し、実践したのです。

 国際分業が進む中,新たな日本の役割として世界に誇る日本の技術力、匠の技、開発力、感性を生かし,ますます贅沢になる消費者ニーズを満たす高付加価値の商品開発、ブランド開発を行い、世界の市場に向けて発信する際には、イタリアのブランドビジネスの仕組みは最も参考になります。

 特に、地域に関係なく中小零細企業の力を発揮するには、実に相応しいシステムです。(ネットワークビジネスを成功させる秘訣は後述します)



● 土管メーカーから高級ブランド陶磁器メーカーに変身

 かつて私がマーケティングを担当していたことのあるイギリスを代表する陶磁器のメーカー、ロイヤルドルトン社の本社があるストーク・オン・トレント(地場産業が陶磁器の町)を訪問し、地元の博物館を見学した時に,唖然としたのを覚えています。

 真っ先に目に飛び込んできたのが茶色の土管であったからです。英国の王室御用達の世界的にも有名な高級陶磁器を展示した博物館だから,さぞかし芸術性の高い伝統の重さを感じる陶磁器が並べられているものと思っていただけにびっくりしました。

 後で話を聞くと、1815年に創業者は小さな工房で家庭向けの陶器を生産する窯からスタートし、その後、息子が産業革命の時流に乗って需要の高まる土管や便器等の実用陶磁器の製造中心に切り換え、大きな収益を得たのだそうです。

 1860年頃から、再び装飾品を手掛けるようになり、1877年からは本格的に芸術性の高いテーブルウェアーに着手してからも、それぞれの時代のライフスタイルに合わせて、独自のデザインや色彩の陶器を開発し、また白い肌と堅牢さを誇る動物の骨灰を使った独自の生地「ボーンチャイナ」を開発し、一躍脚光を浴びました。(実は絵付けの部分では日本の技術も採用していました。)

 あくまでも陶磁器にこだわって、伝統を重んじながらも独自の開発を続け、王室からロイヤルの称号を冠することを許され、名実共に世界最大級の陶磁器メーカーとなったのです。その間にも、「ミントン」「ロイヤルアルバート」「ベスウィック」等の窯元を吸収(M&A)し、今日では、食器だけでなく、陶花、人形、置物など幅広い製品を製造し、今でもその名を広めています。



● 変える「勇気」と、「実行力」が自らを救う。

 「自社の売りモノ」の磨き方、「新しい仕組み」づくりには、たくさんの選択肢があります。今後出来るだけ多くの具体例をご紹介したいと思っておりますが、いずれにしても、地殻変動する市場、消費構造の中で「自社の売りモノ」を生かすには、先ず自らが変わらなければなりません。

 そして、自らを変える勇気と新たなビジョンに向かって徹底して実践する覚悟、社長の信念が、諸々の格差やハンディーを乗り越えて、「これから」の時代に、自社を生かし「再生」「改革」「成長」を可能にします。



内海悟


参考図書
 『日経で学ぶ「経営戦略の考え方」
(日本経済新聞社刊 1575円)


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