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柿内幸夫の「社長の現場改善」 43

「1個あたりの生産コストの罠

 先日、ある製造会社C社の完成品倉庫であった話です。

 C社で扱っている商品は典型的な季節商品で、見込み生産をおこなっています。しかし、これまでの実績を見ると、どうしても多めにつくってしまい、売れずに残っている不動在庫が相当量たまっていました。

 今年の初めに5Sを実施した時に、残念ながら、たいへん多くの超不動品があることが分かり、泣く泣く処分しました。

 しかし、今つくっている商品がまた同じように不要品になってしまっては大変ですから、今年の春からは昨年に比べて初回生産のロットサイズを4分の3に減らしました。もちろん、追加注文が出た時の対応力の改善をした上での決断です。

 そして先日、久しぶりにその倉庫に行きました。景気の回復もあって、販売は好調のようです。品種が増えてトータルの販売量は増えたにもかかわらず、あまり大きな当たり外れがなく、心配した突発の追加生産も例年並みであったということでした。

 倉庫を見ると、通路にモノが溢れかえっていた昨年とは比べ物にならないくらいガランとしています。

 私はそれを見て、「いやあ、これは良かった、これなら大きな利益が出ましたね」と、C社の部長さんに申し上げました。

 ところが、彼の反応はあまり良くありません。

 「あれ、元気ないね、どしたの?」と聞くと、彼の答えはこうでした。

 「確かに在庫は減りました。しかし、コストがずいぶんと上がってしまいました。やはり、ロットを小さくするとダメですね」といって、深いため息をつくのです。

 さて、彼のこの考え方は正しいでしょうか?

 話を分かりやすくするために、C社の製品において、すべての品種の生産量と販売量が全く同じであったと考えます。

 初回の生産ロットサイズは、去年は「10,000個」でしたが、今年は4分の3に減らしましたから「7.500個」です。そして、販売量はすべて「7,000個」であったとします。

 そうすると、去年のやり方だと「10,000個」つくって「7,000個」売れたので「3,000個」余ったということです。

 そして、今年は「7,500個」つくって同じく「7,000個」売れたので、「500個」余ったということになります。

 すなわち、どちらにしても、売れた量は「7,000個」で同じです。そうすると、収入は同じですから、支出が少ない方がより多くの利益を得ることになります。

 この場合、どちらの方が支出が少ないか? 

 考えるまでもありません、「7,500個」の方です。明らかに儲かったはずなのです。

 ですから、彼は大喜びしていなければならないのに正反対に悲しい顔をしている。彼は損をしたと信じているのです。

 では、彼を落ち込ませているコストとは何か? 

 それは、一個あたりの生産コストです。

 一つの製品ごとに型を起こしてつくるのですから、たくさんつくった方が一個あたりの費用は安くなります。

 しかし、コストが低ければもっと利益が出るというのは、すべての商品がきちんと売り切れたときの話であって、売れ残っているのであれば、その計算は成立しません

 たとえ、世界一安いコストで製品をつくることができても、一個も売れなければ会社は潰れます。

 こういう極端な話をすると、この事実は分かっていただけるのですが、それはあくまで理屈上の話と受けとめられていて、現場では、相変わらす、計算上のコストダウンが幅を利かせている会社が多いものです。

 とても使い切れない量の部品を一回にドーンと買ったり、一回の生産ロットを自分の能率向上の目的でさらに大きくしたり…当人は大真面目でやっているのですが、会社にとっては迷惑な話です。

 このことは、17話と18話ですでに取り上げていますので、読者の方にとってはバカバカしいことかもしれませんが、どうも現場ではまだまだこういう過去の亡霊が元気に飛び回っているようです。

 今回の事例は、単純にこの部長さんの勉強不足と言い切ってしまうわけにはいかないほど、この手の事例をたくさん見かけるのです。

 景気回復基調の昨今ですが、このような考え方の人は、在庫を持ちたくて持ちたくて、うずうずしています。

 売り上げは増えたけど、人も在庫も借金も増えたというのではせっかくの景気回復が意味をなさなくなります。

 警戒警報を発令します。

 この43話をお読みになった皆さま、今すぐ現場に行って下さい。そして、ここに述べたような傾向がないかの確認をお願いします。私の心配が杞憂であることを望みます。

 ※柿内先生に質問のある方は、なんでも結構ですので下記にお寄せください。
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