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柿内幸夫の「社長の現場改善」 30

平成16年度 (社)日本経営工学会 特別賞(経営システム賞)受賞

「私が考える日本の製造業の将来

 私ごとで恐縮ですが、このたび、「私が考える日本の製造業の将来」と題した文章が、
(社)日本
経営工学会の特別賞を受賞しました。私自身も思いがけないことで驚いており
ますが、みなさんの
お仕事に深く関係する内容ですので、 (社)日本経営工学会さんの
許可を得て、全文をここでご紹介したいと思います。
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 1. 将来の製造業に関する私の予測

 私は製造業の将来に対してかなり明るい状況を頭に描いています。そこでは5年後に日本が再生しているのです。復活した日本の製造業が、再び日本の経済を引っ張っているというものなのです。

 この話をすると、皆さんとても嬉しそうな顔をします。そして、「柿内、お前はいつも楽観的でいいねえ」といった表情を浮かべます。

 しかし私がこの話の続きをすると、皆さんの表情から笑いが消えます。私は5年後、日本の製造業が復活しているとは言ったものの、その時に生存している製造業の数は何と今の半分なのです。

 その間に残念ながら半分の会社がなくなっていると思っているのです。私の話は決して楽観的なものではありません。

 理由は簡単です。

 私は現在の厳しい状況の中で製造業がどのように生き残り、どのように勝ち進めば良いかというイメージを持っているのですが、その内容は極めて厳しく困難なものであるのです。

 ですから現在の製造業のすべてがその試練に対してしっかりと覚悟を決めて立ち向かえるとはとても思えない。

 きっと半分くらいの会社はなんだかんだと言い訳をして改善活動の実行を先延ばしにしてしまい、結局は時代の流れに押し流されてしまうのではないかと思っています。だから半分しか生き残れないだろうと考えるのです。

 しかし生き残った半分の製造業は、死に物狂いの努力の結果、自分の会社の姿を5年前のそれとは全く違った形に変えています。そして日本の製造業が全世界において再び大きな力を持つようになり、その結果、日本の経済も復活しているのです。

 生き残り組の人々は口々にこう言います。

 「本当に大変な5年間だったな。だけど俺たちは決して抽選で選ばれたわけじゃないよな、死ぬほど努力した結果だもんな。5年前と較べれば、造り方も、設計も、購買も、そして営業の仕方も全然違うやり方にしちゃったもんな。そして何より俺たち自身がまったく違ったレベルの人間に育っちゃったよな!」

 世界の人々も日本の製造業復活に称賛を惜しみません。

 「驚いたな。日本の製造業はすべて中国の製造業に凌駕されてしまうのかと思っていたが、とんでもない、またすごい力で世界のモノづくりを引っ張る立場になった!」

 2. どうなっていれば良いのか

 本当に厳しい時代です。以前は日本が強いレベルを誇っていた「品質」も、海外の製造業の努力もあって昔ほどの大きな特色ではなくなっています。

 また中国のように人件費等の面で圧倒的な力を持った国の台頭で、コスト競争力が失われています。今のままでは日本の製造業はどんどんと働く場を海外の製造業に取られてしまいます。

 ではどうすればいいのでしょう? 心配していればいつかは何とかなるのでしょうか。何ともならないと思います。

 そうではなくて、まず生き抜くためには自分の会社がどうなっていることが必要なのか、モノづくりをどのように変えていったら良いのか、ということを一生懸命に考え、その上で実現のための方法を編み出して実行することでしょう。

 私が考える答をお話しいたします。私はそれを「一気通貫」と呼んでいるのですが、それはモノづくりがマーケット、設計、購買等々、関わるすべてと極めて短い時間でつながっている状態を達成することです。

 その姿をもう少し具体的にお話しします。

 お客様が希望を口に出したら、それがあっという間に設計部門に伝わり設計が行われ、その情報が同時に製造にも伝わり工程が出来上がります。同じことが協力メーカーにも伝わり即座に準備が始まって、生産が極めて短時間のうちに実行されます。

 協力メーカーはラインサイドの状況と仕事の方法をすべて知っており、最初の段階から最終の荷姿をイメージして検討を始めますから、一切のモノの移し替えがなく、作業時には一切の持ち替えがない一番やりやすい形での納入を実行します。これらのすべてが一瞬のうちに実行されます。

 またこのプロセスには管理というものがありません。私たちは管理という言葉に慣れてしまっていて、仕事を進めるには必ず管理というものがついて回るものと思い込んでいる節がありますが、これは間違い。

 管理というものは付加価値を生みません、無しで済むならそれにこしたことはありません。品質管理は不良が出るから要るのであって、造るものすべてが良品であるのなら不要です。生産管理も、受けた注文をそのまま生産ラインで製造できる仕組みがあるのであればこれまた不要です。

 しかし、そんなことできるのか? あるいはそれができている会社があるのか? という質問もたくさん受けます。これは永遠の課題です。終わりはありませんし、既に完成してしまったという例もありません。

 しかし実際に国際的な競争力を評価されている企業のほとんどがこの方向で頑張っていることには疑いがありません。極めて難しい課題です。でも難しいから意味があります。あとでやるからそこに置いといて、といった時間調整のレベルで何とかなるような仕事ではこの難局は絶対に乗り切れません。

 3. どうすれば良いのか

 私の答は単純です。リードタイムを短縮することです。製造現場では徹底して工程を統合し、また在庫を減らします。その他のスタッフ部門では「一気通貫」を合言葉に全体のリードタイム短縮を目指してそれぞれの仕事を見直します。その際の目標は例えば「半減」です。

 これはとても難しいことです。その目標を一気に達成する方法を考えろといったらみんな頭が真っ白になってしまいます。白い紙に完全な計画書を書く、即ち達成法を発明せよと言われてしまうとこれはとても難しい、何しろ誰も経験したことがないことなのですからびびってしまいます。言っている私にもできそうもありません。

 ではどうするか。まず在庫を減らす方法を考えてその上で実行するという従来の理論的なアプローチではなく、逆に先に在庫を減らしてしまって問題点を発見して(わざと出して)それを一つひとつ解決するという乱暴な方法を取ります。

 図1をご覧下さい。

 在庫が一杯あると問題点は隠れて見えませんが、在庫が減ってくると顕在化します。ここで一気にすべての在庫をドカンと減らしてしまうと、隠れていた問題点が突然にすべて出てきてしまい下手すると死んでしまいますのでそれはしません。チョビチョビ減らします。

 しかしこの方法には実はすごい秘密が隠されているのです。この方法で薄皮を一枚一枚剥ぐように在庫を減らすと、隠れていた問題点が重要な順番に、これまた少しずつ顕在化するのです。スタッフ部門の抱える在庫は「時間」です。そう考えて改善を実行します。

図1 会社の本質的な問題が顕在化した状態

 そんなことだったらこれまでにもやっているよ、と言う方がたくさんいます。しかしそれはそう考えているだけであって、結果を聞くとできていない。

 できない理由を説明して社長やコンサルタントを説得しても何の意味もありません。できるまでやらなければ意味がないのです。

 設備がなければ試しに手でやってみます。工場のレイアウトが悪いから工程の接続は無理だという場合は、人が何人もついて台車でも自転車でも使って中間部品を運搬し、工程を連結したフリをしてみます。

 人でやってできたところで実際には意味がないという意見も出てくるでしょうが、やってみるとチエが出る。モノづくりが変わっていきます。

 私はこれを人間シミュレーションと呼んで年中実行しています。意味があるからです。できない理由より、やる方法を考えることが何より大切だからです。そしてその考えるという行為を「現場で身体を使うことによって考える」と意味づけているのです。

 4. 最後にそのために必要なこと

 これまでにやるべきことのほとんどは話してしまいました。ただそれをやるのは私たち一人ひとりです。全員です。そのときに私には一つ気になることがあります。失礼を省みず申し上げれば、大変に多くの方が勉強不足です。大切なことに目を向けないままでこれまでの経験の延長線上で何とかしようと思っている方が多いのです。

 例えば在庫を減らすとどうして儲かるのかを知らないままに、やるべきとは思うけれど忙しいから後回し……のような判断がそこら中で行われています。

 経理の方に「在庫削減のメリットは何か?」と尋ねると「金利分が節約できることかな?」といったとぼけた返事が返ってくるのです。

 私はよくこんな話をします。一年前に私はあなたから一年後に返すねと言って10万円を借りた。今日が返す約束の日。しかし私には返す気が全く無い。ただそう言ったら角が立つので利息だけ返すねと言って、現在の銀行の定期預金の利息分(0.01%)の10円払うから勘弁してと言う。

 私はこれからあと30年生きるとして300円払えば勘弁してもらえると思っている。あなたは怒る。どちらが正しいでしょうか。もちろんあなたです。借りたお金は返すものなのです。しかし金利分が節約できるという経理の方の発想は私の言い分と同じでしょう。間違っているのです。

 例えば在庫削減については、在庫はお金がモノに化けたものですからこのキャッシュフロー重視の時代には極めて重要です。

 また図1でご説明した問題解決の手段として何より大切です。そして今の話。こういったことがほとんど理解されないままにただ頭を抱えているだけではとても生き延びることはできません。

 みんなで勉強しましょう。そして難しいから意味があると考えて高い目標に立ち向かいましょう。そして今の厳しい状況にある日本を救おうではありませんか。

 ※柿内先生に質問のある方は、なんでも結構ですので下記にお寄せください。
okada@jmca.net
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