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柿内幸夫の「社長の現場改善」 20

日本のモノづくりの強味

 前回、中国出張のために、岡野製作所が作った「痛くない注射針」で、インフルエンザの注射をしたとお話ししました。
 今回は、その出張報告をいたします。

 中国と一言でいっても、国土は広く、複雑な国なので、私の感想が、どのくらい一般的なのか、あまり自信がありません。

 ただ、これまでに、大連、上海をはじめとして、中国の有名な工業地帯には何回も行ったので、自分なりに頭の整理ができてきたと思っています。
 そこで、私の経験に基づいた考え方を報告いたします。

 とにかく、中国の発展には目を見張るものがあります。
 3ヶ月前に来た時には、何もなかった場所に巨大な建物がたくさん建設されている、といったことが常に起きているので、訪れるたびにびっくりしましたが、そろそろびっくりし慣れてきました。

 よく考えてみると、これはそんなに驚くことではありません。人間の成長を考えても、背が伸びる時とか、心が充実する時があるように、中国は今、日本が昭和30年から40年代の高度成長期に経験したことを同様に経験しているのだと思い始めました。

 そして、日本の高度成長期にも多くの問題があったように、中国にも同様な問題が起きています。

 例えば、急速に増加する自動車に関して、大きな問題が起きています。

 今回、私が行った工場は、大連の中心部から、車で1時間ほどかかる所にありましたが、滞在した3日間に、3つの大きな交通事故を見ました。

 道路は、片側3車線のとても立派なものですが、信号がほとんど無いので、横断する人は、車の流れの隙を見つけて走って渡ることになります。

 そのとき、何しろ幅が広い道路なので、中央で一回立ち止まる。ただし、中央といっても、黄色い一本の線が引いてあるだけなので、両方向からくる車が時速100キロのスピードで、横断者の両側をビュンビュン走り抜けるという状況です。

 車に乗っていても怖いのですから、渡ろうとしている人は、もっと怖いだろうなあと思って心配していましたが、今回はとうとう死亡事故の場面に遭遇してしまいました。

 本当に気の毒ですが、起きない方が不思議という状態です。現地の通訳の方の話によると、中国全土では毎日、大型ジェット機一台分の交通災害による死亡者が出ているそうです。

 安全対策はどうしても後から手をうつことになりがちですが、大変な問題です。

 もう一つ、教育に関しては、現地法人の責任者をしている日本人の方に伺ったのですが、教育レベルはかなり高いようです。
 驚いたことに、「子供が現地の幼稚園に通っているのだけれど、ここではすでに勉強を教えている。日本だとお遊戯とかをしていますが、中国では英語とか算数をやるんですよ」ということです。

 また、現地のエリートクラスの高校生に、日本の有名国立大学の数学の受験問題を見せたら、「これが大学の入試問題とは思えない、やさしすぎる」と言ったそうです。

 以前、アメリカの大学院で学ぶ中国人の人数は、アメリカで学ぶ日本人大学院生の10倍近くの人数であるという統計を見たことがありますが、、私がかかわっている日本の大学の博士課程には、中国人の留学生はいますが、日本人はいません。

 こう書くと、日本は大丈夫か?!

 と思うのですが、私はそう思うと同時に、逆に日本のすごさがどこにあるかを再発見した気がします。

 中国の一部のエリートには及ばないにしても、なぜ日本のモノづくりのレベルがこんなに高いのかと考えてみました。

 例えば、製造現場で標準書を作ることは、日本ではそれほど大変なことではありません。その気になりさえすれば、みんなで集まって動作の分析や、急所・勘・コツの抽出などをして、良いモノを全員で作ってしまいます。

 日本人である私たちにとっては、別に何でもないことですが、この何でもない当たり前のことと思っているところに、じつは大変な宝物があるのです。

 これが出来るためには、現場にいる人のレベルがみんな高くなければなりません。みんなが言葉を理解し、自分の考えを表現でき、それを文章化できる能力をもっていることが条件になります。

 日本は飛び切りすごい人はいないけれど、平均的に見ると、圧倒的なすごさがあります。一部分の改善くらいなら、一人の優秀な人で十分に対応できますが、リードタイムのような「全体系の改善」になると、そうはいきません。

 また、自分がようやくできるようになった仕事を、標準化によってみんなと共有化してしまうことも、みんなで助け合うことに慣れている日本人ならではの仕事のやり方です。

 中国の工場も現場改善をかなりできるようになっていますが、日本のように全員が一つの目標を頭に置いた上で、協力し合ってすごい結果を出すといったことは、まだまだ難しいようです。

 要するに、中国では、在庫を減らしてリードタイムを短縮するといった「全体系の改善」は、まだまだ難しいと考えます。

 そう考えると、中国の台頭があまりに急激であったので、日本がすぐにでも負けそうな議論をしがちですが、これを機会に、日本のとても優れた部分を改めて見直して、それを生かした改善をしっかりやることが大切でしょう。

 人件費の安い中国で、日本と同じやり方で同じモノが作れるということであれば、当然、中国に取ってかわられます。そうならないために、私たちは、日本の強さを生かしたモノづくりをやっていかなければならないのです。

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