柿内幸夫の「社長の現場改善」 03号

現状を正確に把握する3つの方法

 さて、今回より、実際の改善事例を使って、モノづくりをどのように強くしていくかについて、お話をさせていただきます。

 改善を始めるに当たり、まず最初に実行したいことは、現状の正確な把握です。自分が今どこにどのような状態でいるのかを知ることから始めます。そこで、そのために必要な3つの方法を事例でご紹介いたします。

 その3つとは、まず5S、次に工程分析、そして最後に、PQ分析です。

 まず、5Sの事例から始めます。5Sとは、整理・整頓・清掃・清潔・躾の5つのSのことです。

 S県にある自動車関連の仕事をしているA社の事例です。
 その当時、A社は、急激な売上の落ち込みで、創業以来始めての営業赤字を計上してしまいました。社長が、日本経営合理化協会の新春講演会での私の講演を聞いてくださったというご縁で、改善活動を開始しました。

 初めて現場を拝見した時の様子ですが、このままでは会社がつぶれてしまうという危機感が従業員全員に行き渡り、みんな本当に必死な表情で働いておられました。

 しかし、その危機感が返って裏目に出てしまったのです。

 全員が一生懸命に働いて作業スピードを上げたので、すべての工程でモノが早く多くできてしまっていたのです。しかし、置き場所がないので、空いている所に仮置きする。ところが、その場所も足りなくなって、外部倉庫に搬入する。
 その結果、使う直前に、モノが揃わず、手待ちが出る。だから、納期に間に合わなくなって、慌てて作るので品質が荒れる。生産が減っているにもかかわらず、在庫が増えてますます収益が圧迫されるという、いわゆる「悪魔のサイクル」に完全にはまっていたのです。

 そこで、私が最初にやるべきだと提案したことは、5Sでした。
 それを聞いたA社のA社長は、ずいぶんとがっかりした様子でした。会社がこんな危機状態にあるのだから、もっと違ったことを提案すると思っておられたのです。現に、A社はそれまでも改善活動には多くの力を注いでおり、5Sも過去に何度も実行していたからです。

 しかし、私はどんな時でも5Sから始めるのです。
 ただし、普通の5Sではありません。これまでの経験では、どの社長も私の5Sを見てびっくりします。これまでのやり方と、全然違うからです。違うといっても、整理整頓の考え方は変わりません。違うのは、厳しさ・細かさです。

 そして、社長も役員も管理職も一般従業員も、あるいはパートタイマーの方も、全員で5Sを実行する過程で、全員がそれぞれの立場で正確な現状の把握を行い、それ以降の改善活動の糸口を掴むのです。

 5Sの具体的な進め方は、「最強のモノづくり」という本を参照していただくとして、その時の整理整頓の状況を写真でご覧頂きたいと思います。
 5S実行前の写真は6月、中間段階の写真は7月、そして、終了後の写真は9月です。

 これを、わずか3ヶ月の間に、すべて従業員が行なったのです。
 これだけ広い現場において、部品を一つひとつ分類して整理整頓した結果がこれです。何万個とある部品一つひとつがすべて、人の手によって運ばれたのです。

 あるものは、捨てられました。A社長は、泣いていました。あるものは、すべてラインサイドに運ばれ、次に部品を購入する時の信号が、すべてラインから目で見る管理で発信されるようになりました。あるものは、設計変更を実施して活用されました。いろいろなことが、短時間のうちに実行されました。

 結果は、見事に「天使のサイクル」に、乗り移ることができました。
 早く造りすぎの事実がわかり、生産計画と人員配置を見直した結果、場所が空き、スムーズな生産ができるようになり、能率と品質が、びっくりするほど向上しました。

 それだけではありません。
 在庫を大幅に減らすことができたことと、写真の倉庫は借りていたので、それを返却したこと等により、資金繰りにゆとりが生まれたのです。

 今回の報告は、ここで終了いたします。
 しかし、この結果だけを聞いても納得がいかないと思います。
 次回は、何故この5Sが、現状の正確な把握に役立つのかをご説明いたします。

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