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板垣宏征の「見えない・からだ学」 97号 |
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【肝臓細胞さんの気持ち】 |
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| わしは、肝臓細胞。正直、わしは怒っている。 最近の食品偽造問題、いちばん割を食ってるのは、このわしなのだ。いったいこの世の中、何を信じてよいのやら。倫理や正義はもう通用しない世の中になってしまったのか…。 ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ 肝臓細胞さん、かなり嘆いていますね。しかし、彼の怒りも無理はありません。肝臓には、動脈・静脈に加えて、「門脈」という、もうひとつの血管が流入しています。 胃、消化管を通じて吸収された食べ物は、この門脈を通って、肝臓に運ばれるのです。肝臓ではこの門脈血に含まれる消化吸収物の代謝、毒素の代謝、細菌の処理を行います。 胃や小腸を通過した食べ物も、血液に入る前に、肝臓で最終審問を受けるわけですね。 ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ まったく、胃腸のやつらがずさん過ぎて、最近は「こんなもの、血液に通したらどうなるんだ」ってものも平気で送ってきおる。その分、わしが目を光らせて、解毒につぐ解毒を実行せねばならん。 本来、わしのもとへ細菌まで送ってくるなんぞ、もっての他なのだ! 胃のやつが胃酸でしっかり殺菌さえすれば、わしがよけいな仕事までする必要はないのに。 ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ 高級和牛の偽装問題では、6年も7年も前の牛肉がミンチに混ぜられていたという、信じがたい事実が露呈しました。工場では、異臭が漂っていたとさえ言います。 腐った食品、細菌が湧いた食品でも、冷凍技術などを駆使して流通に乗せられれば、消費者の食卓までノーチェックで入り込んでしまう可能性があるという恐るべき事実が明るみになったのです。 いまや、カラダにとって最後の頼りは、胃、腸、そして肝臓の「選別能力」。血液に入るものが、確実に栄養素である保証、それを最終的に担保する肝臓の責任は、想像以上に重いものになっているのです。 ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ わしを取り巻く環境は、日に日にひどいものになっている。薬害C型肝炎問題は論外だが、もともとアジア人は肝炎ウイルスの感染率が高いのだ。 その上、肝臓がんは、別名「アジアがん」などと呼ばれるくらいにアジア人に多い。中国、韓国、日本の順で肝臓がん発症率が高いのは有名な話なのだ。 アジア人は体質的に、肝臓、つまり、わしのところにウイルスを呼び込みやすい。これをよく知っておいてもらわぬと、これからも、日本人の国民病と呼ばれる慢性肝炎の上昇傾向には、歯止めがかからないわけだ。 ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ 肝炎ウイルスでは今、C型肝炎ウイルスが問題になっていますが、B型もA型も、肝炎ウイルスというのは、肝臓細胞の中に入り込んでしまうので、それを攻撃するべき免疫細胞は、ウイルスの狙い撃ちができません。では、どうするのかというと、感染した肝臓細胞をまるごと攻撃し、壊してしまうのです。 肝臓は、沈黙の臓器として、とても我慢強い臓器とされています。確かにほかの臓器に見られない、類まれなる「再生能力」を肝臓は持っています。 健康な肝臓なら、なんと70%まで切除しても、もとの大きさに再生するんです。恐るべき生命力ですね。ただ、そこにあぐらをかいていると、沈黙の臓器だけに、知らぬ間に、肝臓細胞ひとつひとつの生命力は、弱っていってしまうのです。 ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ わしの仲間は、ひとつの肝臓に、なんと2,500億個もおるのだ。わしらは「肝小葉」というグループ単位で構成されていて、ひとつの肝小葉には50万くらいの肝細胞がひしめきあっている。その肝小葉がまた50万重なりあって、肝臓という臓器をつくっておるというわけだ。 数が多いだけに、その数に任せて、免疫の攻撃には身をもって応えることになっている。わしらの仲間の多くは、ウイルスに感染したら、そのウイルスを抱え込んだまま、もろとも自爆するわけだな。 哀しい性(さが)ではあるが、GOTとかGPTとかの数値は、自爆したわしらの仲間の死骸が、血液中に流れ出た証拠だと知ってくれ。 ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ 肝炎ウイルスがアジア人になぜ多いのか、医学的に詳しいことはまだわかっていません。ただ、アジア人特有の食様式が、欧米輸入食にとって代わられ、肝臓の負担が増えたという背景は大きく関与しているのかも知れません。 肝臓は、先祖の時代から伝統的に食して来たものの分解の仕方は、よく知っています。「地産地消」「身土不二」…。肝臓の歴史は、これで成り立っているのです。 それだけに、これまでに経験のなかった食べ物や人工の生成物に対しては、肝臓は因数分解を解くがごとく頭を悩ますのです。…「むー、これはどうやって解くのだ?」 肝臓の大きな役割に「解毒」がありますが、解毒とは「毒を理解する」とも解釈できます。肝臓は、いつも自分のところに来る相手を理解しようとし、これは、今の自分にとって有用か、そうでないかを見極めようとしているのです。 ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ わしらは、理性と正義の門番なのだ。理性を持って相手を見極め、有害だと思えば解毒して腸に差し戻す。これには並々ならぬ判断力、そしてそれを下すに見合う相手への理解力が必要なのだ。 ところが、あまりに理解不能なものばかりがいつも送られてくると、わしらもオーバーヒートして、中にはヒステリックになって弱ってくるものも出てくる。 そんなふうに弱ったわしらに、肝炎ウイルスは感染してくるのだ。ウイルスのやつらも、わしらが正常な判断力を持っているか否かはよく見ている。正常な判断のできぬ肝細胞は、血液にとって、カラダにとって危険だというわけだな。 ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ 血液中に安定した社会を実現するのが、肝臓細胞さんの至上命題です。代謝、無毒化、貯蔵を通じて、血液へ常に安定した栄養素を送り続けようとしています。ここには、毅然とした判断力と、冷静で理性的な態度というものがいつも要求されます。 ところが、この肝臓細胞さんにも、陥りやすいワナというのがあります。それは、「硬直した正義」とも呼ぶべき、頑なな判断基準です。 ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ 世の中というのは、時代の移り変わりとともに、昨日の常識は今日の非常識なんてことになっておる。わしらは解毒の臓器である一方、許容の臓器でもあるから、時代の移り変わりにはいつも鷹揚(おうよう)でいるように訓練されておる。 しかし、だ。そうやって、世の中に迎合しているばかりでは、血液(社会)の安定は保てぬではないか。守るべき最低限の規律だけは、わしらが身をもって態度に示してやらんといかんのだ。 ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ 「腹に一物」という言葉があります。相手に合わせているように見えて、その実、こちらの意図は別のところにある。いったんは受け入れているように見えて、腹の底では受け入れていない。 この「腹の底」とは、肝臓細胞さんのことであるように思えてなりません。東洋医学の世界では、肝臓にもっともストレスになる感情は「怒り」です。しかも、外側には見えないように封印した「怒り」。 肝臓に負荷を与える心理状態というのは、「いや、別に怒ってないよ」と周囲に言いつつ、いつも不機嫌でいる態度です。ぐつぐつと不完全燃焼のこの心理状態が、肝臓細胞の判断力を著しく低下させるのです。 肝臓細胞さんに求められるのは、冷静な理解力、と書きましたが、「怒り」という感情は、相手を理解するのにもっとも邪魔になる感情です。 封印し、蓄積した怒りというのは、いずれ、「わしは本音ではこう思っている。わしの方が正しいに決まっている、それがわからないようなら自爆するまでだ」という肝臓細胞の悲痛な叫びとなってカラダに表れます。 ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ∴ ひとつひとつの判断を、わしに先送りする態度は、もうやめにしてくれんか。わしはわしなりにがんばっているつもりだ。 しかしな、これは吸収してよいかどうかは、まず胃や腸で、きちーんと選別してほしいのだ。世の中、間違っている、あの人の態度はおかしいと思うなら、日常の場面場面で、毅然とその態度を示してほしいのだ。 いったん受け入れたなら、それにはそれなりの覚悟が必要だぞ。「矛盾した態度」というのが、わしら肝臓細胞にとっては、非常に困る事態なのだということを覚えておいてほしい。 わしらの正義が、いつも普遍的で恒久的であるように、わしは、望んでおるのだ。 【肝臓細胞から学ぶこと】 正義とは諸刃の剣だ。矛盾に満ち、あまりに硬直した正義は、自爆テロを生んでしまう。
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株式会社ウォーターソリューション/ ココロとカラダの謎研究所 |
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※板垣宏征氏に質問のある方は、なんでも結構ですので下記にお寄せください。 etsuko@jmca.net
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