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板垣宏征の「見えない・からだ学」 83

症状イメージ・マップその3 〜不眠症〜

 症状イメージ・マップ。今回のテーマは、「不眠症」です。

 ○クライアントさん:60代、女性、いくつかの会社を所有 資産家

 ○テーマ:不眠症

 ―――さて、では、真ん中に「不眠症」と書きますね。この不眠症をイメージに沿って展開していきます。Cさんにとって、この不眠症は、どんな感情を抱かせる症状でしょうか。

 Cさん:…不安、孤独…ね。

 ―――「不安」「孤独」と。つらいですね。

 Cさん:はぁ、眠れないというのは酷よね。頭がはっきりしなくなるのよ。夜が恐い。今日も眠れないのか、と思うと本当に恐くなるのよ。

 ―――「酷」「頭がはっきりしない」「恐い」…。その「頭がはっきりしない」と感じるのはどんなときですか。

 Cさん:最近、人の顔や名前がはっきり思い出せないことが多くなってるのよね。

 ―――人の「顔」「名前」がはっきりしない、と。では、もっとも最近のケースで、思い出せなかったことって、何かありますか。

 Cさん:ああ、甥っ子ね。訪ねてきた甥っ子の名前が思い出せない。顔も、あれ?こんな顔だったけ、と…。

 ―――えー!? それは本当の甥っ子さんなんですよね。

 Cさん:それは確かなのよ。確かに兄の次男坊なんだけど。

 ―――他に思い出せなかったケースはどんなことがありますか。

 Cさん:そうね。だれかというより、私の周囲のみんなの顔がのっぺらぼうに見えるときがあるの。みんな同じように見えてしまう。

 ―――「のっぺらぼう」ですか。

 Cさん:そう、うちの会社の役員も、銀行の担当さんも、ガス集金の方でさえ、のっぺらぼうだわね。

 ―――うーむ、のっぺらぼうなのは「役員」「銀行」「ガス集金」さんなんですね。ついでに「甥っ子」さんも。

Cさん:…。それ、何かを意味してるのかしら。

 ―――さあ、今のところわかりませんね。ところで、ちょっと最初の円に戻ってもらって「不眠症」についてですけど、これ、イメージの中で、Cさんから切り離してみてもらえませんか?

 Cさん:切り離すって? どうやれば…?

 ―――イメージの中で結構です。Cさんの中の不眠症の部分だけを取り出して、そこに置いてみて下さい。

 Cさん:むずかしいわね…。うーん、こんな感じで。

 ―――はい、取り出しましたね。じゃあ、たった今は、Cさんは不眠症ではありませんよ。そこに置きましたからね。

 Cさん:今は…、不眠症じゃない…? 何だかおもしろいわね。

 ―――はい。では、ここに取り出した「不眠症さん」を、いっしょに観察してみましょうか。この方、どんな顔してますか。

 Cさん:この方って、人なの?

 ―――そう。どんな顔です?

 Cさん:うーん、ちょっと待ってね。…やっぱり「のっぺらぼう」かしら、顔がないわ。

 ―――そうですか、「やっぱり、のっぺらぼう」と。じゃあ、顔のことは置いといて、この不眠症さん、服はどんな色のものを着てますか。

 Cさん:えーっと、紫、かな。

 ―――「紫」。

 Cさん:そう、紫ね。これははっきりしてるわ。

 ―――「はっきり、紫」と。そういえば、今日、Cさんがお召しになっているのも紫色ですね。紫は、お好きな色なんですか。

 Cさん:あら?そうね。紫は好きね。でも、もともと好きってわけでもないんだけど

  ―――「もともと好きではない」と。はい、じゃあ、この「紫の服を着た不眠症さん」を、もう一度よく見てあげましょうか。顔に、何か表情が出てきませんか。

 Cさん:えーっと、ああ、出てきたわ。あら、あの甥っ子になったわ。んん、ちょっと待って。次は、兄。また変わったわ。兄嫁…弟…、母親、おじ、おば…。

 ―――顔が、くるくる変わるんですか?

 Cさん:そうね。出てくるのは、…親戚一同ね。

 ―――「親戚一同」と。じゃあ、くるくる変わるのを止めてください。はい、今、最後に、誰の顔になりましたか?

Cさん:…。

 ―――どうしました?

 Cさん:…亡くなった、主人だわ。

 ―――「亡くなったご主人」。…そうですか、ご主人はいつ?

 Cさん:もう、25年前よ。

 ―――えーっ「25年前」!  

 Cさん:そう、うちの主人はいくつもの会社経営をしていたのね。今は、私が全部引き継いでいるけど、この25年、本当に大変だったわ。

 ―――はぁ、「大変だった」と。

 Cさん:そう、話せば長いけど、主人の家は資産家で、いくつもの事業を持っていたの。長男でしたからね。

 ―――…でも、ご主人はお仕事の中途で亡くなった。

 Cさん:無念でしたでしょうけどね。医療福祉事業は、現場で私も手伝っていましたからね。主人が亡くなり、ほかの会社もオーナーということで、私に経営権が回ってきた。

 ―――ご主人の跡をついで、奥さんが経営にたずさわったと。

 Cさん:そうよ。右も左もわからない状況からね。でも、がんばったわ。子どもがいなかったしね。女だてらに経営者として、多くの役員をつかって。危ない橋も渡ったわよ。あちら関係の親分さんともゴルフ接待をしたりね。

 ―――おお、すごいですね。「女だてらに」と。

 Cさん:波乱万丈ってやつだわね。おかげで度胸はついたわね。いろんな人間とつきあってきたわ。例えば…etc.etc.

―――なるほどー。まさしく「波乱万丈」ですね。

 Cさん:そうよ。で、何とか事業を継続して、もちろん失敗したものもあるけどね。バブルも上手に乗り切って、それなりに資産も拡大させたのよ。

 ―――「資産拡大」と。うーむ、女傑だ。

 Cさん:女傑? そうね。女としては幸せかどうだったかはわからないわね。

 ―――え? そういう意味では…。

 Cさん:子どもがいればね。私、再婚はしないと決めていたから…。親戚とも距離を置いていたし。

 ―――「親戚と距離」。それはなぜですか?

 Cさん:それは、主人との結婚を大反対されたからよ。うちの家系とは合わないとかでね。でも、私は片田舎の地元を出たかったのもあって、反対を押し切ってこちらに出てきたの。うちね、地元では名士の家系だから、ほんとうに不自由で窮屈だったのね。

 ―――はぁ、それで、ご主人との新しい生活をと?

 Cさん:そう、地元とは縁を切るつもりでね。主人は私をほんとうに愛してくれた。自由も与えてくれたし、今でもそれには感謝してるわね。

 ―――地元は「不自由」、ご主人は「自由」。でも、そのご主人が急に亡くなった。

 Cさん:そうね。主人が亡くなったときのことは、あまりにショックすぎて、よく覚えてないわ。

 ―――そうですか。でも、そこから奥さんは立ち直ったんですね。ただ立ち直っただけでなく、ご主人の事業を引き継ごうと決心された。

 Cさん:そう。そうね。あの人の残したものを消したくなかったのね。

 ―――そりゃあ、すごいがんばりだったですよね。ここまで事業を継続され、拡大され…。ご主人への思いの強さだけでは、ここまでにはなりませんよね。

 Cさん:地元にスゴスゴ帰るわけにも行かなかった、というのもあるかもね。

 ―――そうか、「地元」がキーワードなんですね。

 Cさん:地元、親戚には、私、C家の恥みたいな見方をされていたから。

 ―――うーむ、さっき、紫の服を着た「不眠症」さんの顔が親戚一同にくるくる変わりましたよね。

 Cさん:そうね。

 ―――紫の色彩心理ってね、「孤高の戦士」「自分は自分でいい」という意味合いがあるんです。

 Cさん:孤高の戦士?

 ―――そう、つまり、「私は私のスタイルで行く。そのためなら孤独でもかまわない」って気持ちですね。

 Cさん:はは、それはその通りね。

 ―――睡眠てね。カラダの機能が回復・修復されるだけでなく、心の修復もされる大切な時間なんですね。

 Cさん:それはわかるわね。眠れないと、本当に心がすさんでいくのよ。

 ―――人の意識には、自覚できる意識と、自覚の及ばない無意識の世界があるのをご存知です?

 Cさん:ええ、知ってるわよ。

 ―――睡眠中の意識って、じつは無意識の領域に入って行くんですね。それでね、無意識には階層があって、ユングという人が指摘したように、人間の意識の一番奥底には、「集合無意識」という広大な意識の領域があるんです。

 Cさん:ああ、聞いたことがある。世界のあちこちに残る伝説なんかは、人の意識が共通して持つ集合無意識が反映されてる、とか言うんでしょ。

 ―――そう、人の意識は、無意識の領域に入ると、どんどんつながっていくということなんですよ。それでね、集合無意識という広大な領域の手前に、民族意識、地域意識、社会意識などがありましてね。どんどん個人の意識に近づけていくと、一番手前の無意識って何だと思います?

 Cさん:家族の意識ってこと?

 ―――ご名答!

 Cさん:ははぁ。やっぱりね。

 ―――意識の世界で、まず家族意識とつながり、それからさらに、だんだんと多くの人の意識とつながっていくのが睡眠という行為の役割なんですね。個人の意識って、個室みたいなもんでしてね。起きているときはその個室に入っている。そこでは個人の自由があるんですよ。逆に眠るというのは意識的には「大広間」にでるようなもんですね。そりゃあ、そこには大広間なりのルールがあって、あまり個人の自由がない。その代わり、つながっている安心感はあるわけです。

Cさん:眠れないと不安になるのは、安心感とつながれないせい…。

 ―――さきほど、Cさんは、「紫がもともと好きではなかった」と言いましたね。

 Cさん:ええ。

 ―――つながっていたいという気持ちは誰しも自然に持つものです。紫の、孤高の戦士にならざるを得ないのには、ほかに理由がありますよね。

 Cさん:子どもみたいではずかしいけど、夢にね、何度ものっぺらぼうが出てくるのよ。それはおそらくみんな親戚のはずなんだけど、「金をくれー、金をくれー」ってね。私を打出の小槌のように思っているのね。お金と顔を取られそうになって、私は逃げるのよ。「私は私なのよ!」って。

 ―――うーん、そうか。

 Cさん:資産があるとね、いつも私を、お金としてだけ見ているんじゃないかと疑心暗鬼になるわけね。のっぺらぼうたちは、私を私として見ない。役員や、銀行や、集金に来る皆が…。

―――なるほど。眠れない心理の向こうには、Cさんをお金としか見ない人たちへの抵抗感があるわけですね。でもね、Cさん、あなたをいちばんお金としか見れていないのは、実はあなた自身なのかも知れないですね。

 Cさん:! どういうこと?

 ―――本当のあなたを理解できるのは、天国に行ったご主人だけと、どこかで頑なに思い込んでいませんでしたか。ご主人以外の人たちとの間であなたをあなた足らしめていたのは、ご主人が残した事業と手元にある資産だけだった。そのバリアを通してしか、あなたは人と接することが出来なかったのかも知れませんね。

 Cさん:…。

 ―――さて、さっき、そこに置いた「不眠症さん」。もう一度、自分の内側へ戻しましょうか。今度は、服の色を変えてね。顔は、ご主人にしてもらえますか?

 Cさんは、抱きしめるようにして、「不眠症さん」を、自分の胸のあたりに戻しました。そして、ひとしきり泣いておられました。孤独にがんばり続けた25年間が、走馬灯のように彼女の心を巡ったのかも知れません。

 Cさん:ありがとうございます。そうなのかもね。ちょっと今晩は眠れるような気がするわ。久しぶりに主人のことを話せたし。主人が横にいてくれると思えば、安心して眠れるかもね。


 
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 株式会社ウォーターソリューション/ ココロとカラダの謎研究所 
  代表取締役 板垣宏征  http://kireinococoro.com/

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