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板垣宏征の「見えない・からだ学」 54

「潜在意識と病と 〜いらだち・焦燥というテーマ〜

 「特に理由もないのにイライラしてしまう。」

 「朝から機嫌が悪く、職場で部下に無愛想に接してしまう。」

 「イライラの理由を思い返してみても、特に大きな出来事は思い当たらない」。

 日常生活とは、サブリミナルにいろんな情報が入ってきますので、特にどれというわけではなくても、たくさんの情報が積み重なって、イライラのストレスを刺激していきます。

 たとえば・・・、

 「昨日、経営者交流会の懇親の席で売り上げ規模の話題となった。」

 「今朝読んだ新聞の中で、世間で注目されている若手企業家の年齢が自分よりずっと下だと気づいた。」

 「通勤の途中、電車の出口に急ぐ人の割り込みにムッとなった。」

 ひとつひとつは他愛もない事柄も毎日ちょっとずつ溜まったイライラ・ストレスが限界を迎えると、なんでもない他人の所作に怒ったり、不機嫌になりやすくなります。

 来所されたIT関係の経営者は40台半ばの男性。高血圧を抱え、時々、急激なめまいに襲われると言います。

 行きつけの病院からは降下剤と血液の凝固を防ぐ薬をもらっていますので、常備薬として飲む限り、血圧は安定しています。しかし、からだのことよりも、最近多くなった「イライラ感」をどうにかしたいとのことでした。

 IT関係の仕事はドックイヤーどころかマウスイヤーと呼ばれ、つまり、情報社会のスピードがネズミの時間ほどに速く、いかにそれに着いていき、一歩でも先行く見通しで、ソフト開発していくかが命ということです。

 この男性もさすがにベンチャー企業家だけあって、頭の回転が速く、度胸も据わっている。

 競合他社に抜きん出て、大手のシステム開発の受注を何本も抱えているので、経営も安定しています。売り上げ規模も年々増加、従業員数も増えて、傍から見る限り、順風満帆です。

 しかし、この男性がおっしゃるのに、「もう自分があんまり会社に出なくていい状況を、早くつくりたいんですよね。体調もよくないし、ゆっくりできる自分の時間がほしい」

 とはいえ、では右腕として日々の事業回転を安心して任せられる人材はいるか、というと「なかなかそういう人材がいないんですよね。今の幹部が早く成長してくれればいいんですけど、全体が見えないというか、私の言うことはきっちりできるんですけど」

 コンサルタントにそういうしくみづくりを相談できますか、というと、「コンサルは所詮コンサルですからね。意見が遅いんですよ。現場が見えないから、キャッチアップできないんですね。何人か頼んでいるけど、パッとはしないですね」

 「・・・。」

 「イライラしちゃうんですよ、会社に出ると。もう少し高いレベルで、会話できる相手がいるといいんですけど」

 常に、変化と新しい状況対応が必要な業界だけに、このままで安穏とはしておれない。しかし傍からは順風満帆に見える。だからこそ、他人に相談できないこの方の葛藤。

 ゼロから創り上げたこの会社が成長を遂げているうちはいいけれども、さあ果たして、成長が止まると一気にゼロに戻ってしまうんじゃないかという不安も口にされていました。

 「0とか10じゃなくて、5とか6とかの規模で安定維持できるように方針を決めてはどうでしょうか?」

 私が言うと、「そういう業界じゃないんですよ。成長安定って言うんですかね、技術自体が進化しますから、人材もそのつど入れないと、おっつきませんしね」

 ・・・うーん。会話を聞いていても、この方に多く頻出するのが「早く」という言葉です。また早く判断しなければいけないという日常のクセは、会話も「一を聞いて十を知る」というパターンとなりますが、行き過ぎると相手に覆いかぶさるような話し方になってしまいます。

 「ところで、ご兄弟はいますか」と、話を変えて聞くと、「いますね、兄と弟が。男ばかりの3人兄弟です。うちは父親が医者ですから、2人とも医学部へ行って、今、2人とも国立の病院で勤務しています。なんて言うんでしょうか、みんなまじめにやってますよ。父親が安定した職業につけと、うるさかったからね」

 質問以上の答えが帰ってくるこの会話のパターンにそろそろ慣れてきた私は「へー、すごい。やっぱり頭のいい家系なんですね」・・・と合わせながら、この辺に、イライラの根本原因がありそうだ、と直感していました。

 心理学用語に「カイン・コンプレックス」というのがあります。

 旧約聖書に出てくるカインとアベルという兄弟の物語で、あるとき、カインとアベルは神の前に捧げ物を持ってきました。カインは農耕従事者として地の作物を、アベルは牧畜従事者として羊の初子の中から最上のものを捧げました。

 神は弟のアベルの捧げ物に目を留められ、カインの物は無視されました。するとカインは顔を伏せて怒り、弟アベルを野に連れ出して殺しました。神が彼を追及すると「自分は知らない、自分は弟の番人ではない」と開き直りました。

 それに神は怒り、エデンの東のノデにカインを追放しました。カインの子孫たちは神から離れて都市建築者、家畜飼い、音楽家、鍛冶屋などになりました。

 これは兄弟間の競争心や嫉妬心を象徴する神話で、心理学者ユングはこれを「カイン・コンプレックス」と名づけました。

 人はだれしも「他人より抜きん出たい」という気持ちを持っています。

 また、男性が往々にして持つ心理に「自分が一番わかっている」ことを相手にわからせたい、というのがあります。特に男兄弟ばかりで育った環境では、これが大きく反映されることがあります。

 彼の日常の「イライラ」の正体は、じつは、見えない兄弟との対決だったのでした。かたや安定の代表のような「医師」という職業、かたや不安定の代名詞のようなIT産業。

 彼のイライラは無意識に兄弟を想定しているものだけに、自分に意見する者に、知らずと対立と競争を生み出します。

 <幹部でも、コンサルタントでも、自分より上の能力を出してもらっては困る>

無意識にはたらくこの葛藤は、兄弟へのコンプレックスを投影しているものでした。

 私がかいつまんでこの種の会話に持ち込んでいくと、さすがに頭の回転のいいこの方は、「なるほどね。僕は真ん中だったから、父にも母にも中途半端に関わられた気がしてましたね。父親は長男に、母親は末っ子に目が向きますからね。僕は僕で、それはぜんぜん気にしてないつもりで今の人生の選択に自信も持っているんですが、まあでも、必要以上に兄弟に負けないように意識してきたのは、いい意味でも、悪い意味でも確かですね」

 彼は経営者としてすごくプライドと誇りを持っていましたから、ショックだったのは、兄弟を投影して、自分の都合で幹部たちを過小評価していたかも知れないという点だったようです。

 しばらくして、次に彼がいらっしゃったときに言うには、「まず、ゆっくり歩くことを意識してみたんです。自分の本当のペースってこれくらいかなって。かなり、ゆっくりしました。そしたらね、幹部を見る目も変わってきたように思います。見るものに何かリアル感が増したんで、この間休日で行った旅でも、風景が異様にきれいでしたよ。おかげでイライラは、明らかに減りましたね」

 さすが。IT産業は変化の早い業界だけに、ツボをつかめば自分自身の変化も早い。

 それにしても、イライラ防御策として「まず、ゆっくり歩く」とはいいこと聞いたな・・・。いそいそとしっかりメモを取る私でした。

 人体の謎研究所&波動リーディングセンター 
  所長 板垣宏征

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 ※板垣宏征氏に質問のある方は、なんでも結構ですので下記にお寄せください。 okada@jmca.net
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