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堀文明の「次のトレンド・コンセプト」 9号



「ロケーションギャップという戦略」
お好み焼き 雀の御宿




 今、「裏渋谷」(Danchu 10月号)と称され密かに注目を浴びているエリアがある。それが、今回紹介するお好み焼きレストラン「すずめのお宿」がある「円山町」という街だ。

 若者達で賑わう渋谷の西側に位置する円山町は、約100軒以上ものラブホテルが乱立する日本有数のラブホテル街だ。

 特徴的なのは、このラブホテル街の東端には、「ランブリング・ストリート」と呼ばれる週末ともなると、クラブやライブハウス目的で7000名近い若者が集まる通りがある。

 目の前には、無数の飲食店が控える渋谷があり、およそ飲食店とは縁のなさそうな一帯に飲食店を出店するというのは非常にリスキーな戦略と思われがちである。しかし、こういったエリアでも戦略を間違わなければ繁盛店を築くことが出来るのだ。

 事実、今回紹介する「雀の御宿」は、連日連夜、大人のお客様が集まり、毎夜、70%のテーブルが予約では埋まる程、お客様に支持されている。

 そこで、今回は、この雀のお宿のロケーションに焦点をあてながらレストランのロケーション戦略というものについてお話しよう。



 ● その街と、お店の顧客層の不一致という魅力!

 レストランの出店にとって立地が重要であることは言うまでもない。通行量、近隣オフィスに勤務している層、徒歩圏内に居住している層、同業態の点在など様々な視点やデータなどから立地を選択する。

 つまり、立地から想定される客層がお店のターゲットとなりうるか、またそのヴォリュームはどうかなどという視点である。

 ところがそういった視点からすると雀の御宿はまったく不自然で常識を外れた立地を選んでいるように思える。

 近隣はラブホテル。ちなみに、ホテル自体の月間利用者は12万人を越える。同じく円山町の一角は東京一のクラブ、ライブハウスの密集地帯。深夜ともなると音楽や新しいファッションなどの刺激を求めて多くの若者が来街する。その数、月間9万人。常識的な戦略からすると、想定される顧客層はラブホテルを利用するカップルとクラブ客だ。

 しかし、雀の御宿の顧客は、そのどちらでもない大人のカップル、女性同士客、ファッション関係者、音楽関係者などだ。

 円山町という独特のロケーションとは、関係なく、東京全域からお客様が訪れる。さらにお店のイメージは昔の置屋。あるいは木屋町や祇園にありそうな小料理屋を思い浮かべてもらいたい。




昔の置屋をイメージして再現


円山町からは、想像できない店内

 長い赤暖簾。妖しい色彩に塗装された桐の箪笥。芸妓たちが控えの間としていたような個室。近隣のクラブとラブホテルの街、円山町からはイメージしづらい店舗。


 

 実は、このターゲット・イメージのギャップ、立地から想定される店舗内装・外装のギャップが、成功の秘密なのだ。

 一度、円山町に足を踏み入れ、クラブの乱立する中を通り抜け、さらに奥深くラブホテルの密集する妖しいエリアに入り、ようやくたどり着く雀の御宿は、そのロケーションそのものがお客様を魅了してしまう。

 このロケーション・ギャップ(ロケーションから予想される客層と店舗イメージが現実の客層・店舗イメージの落差)がお客様を魅了する重要なポイントとなるのだ。

 もし、円山町にクラブを利用する若者達の溜まり場になりそうなカフであったら、もし、「雀のお宿」が神楽坂や京都の木屋町にあったら、何の変哲もない店であろう。

 しかし、神楽坂や木屋町あたりにありそうなお店が円山町にあるから、そのギャップが来店するお客様に与える印象・感動が増幅される。

 こうした、立地・ロケーションから予想されるイメージを表面的には裏切ること。これがポイントなのである。

 ● 潜在的な客層に目をつける

 実を言うと裏渋谷界隈(新泉、円山町、松濤)のエリアは、歴史的な遺産を残した大人の町なのである。円山町北方には、松濤という東京有数の高級住宅街。裕福で新しいものに敏感な大人たちが数多く住んでいる。

 裏渋谷は、デザイン、音楽関係のオフィスも数多く点在する。そこで仕事したり生活したりしている人たちが隠れ家のようにして利用する店が井の頭線新泉駅から円山町へ抜けるラインにたくさんあるのだ。

 昔ながらのホルモン屋、鮮魚小料理屋、焼き鳥や、オーセンティックなBAR、今流行の立ち飲みBAR、デザインセンス溢れるラウンジ風のBAR、etc。

 つまり、円山町の西側一体から新泉にかけて、文化村通りを旧山の手通りに向かう道路脇には、新旧様々な店舗が常連客を集めて毎夜営業している。クラブの乱立するランブリング・ストリートが裏渋谷の動脈だとしたら、さしずめ静かな静脈というとこだろうか。

 つまり、雀の御宿の立地は実は目立たないけれど、こうした大人の街裏渋谷に存在している潜在的な大人客を充分に見据えた立地戦略なのである。

 さらに付言すると、円山町は大正時代からの花町と呼ばれた歓楽街。料亭、茶屋、遊郭、置屋、検番などが存在する遊びの街だったのである。

 そこに目をつけたのが同店オーナーである鈴木修司氏。もともとは、パルコのデザイナーとして活躍し、その後東京のクラブ・シーンを常にリードし続けるイエローのプロデュースに携わり現在イエローのオーナーでもある。


「雀のお宿」の入り口


「雀のお宿」経営 鈴木修司氏(談) 

 「吉原の遊郭をイメージしたのです。内装は昔からあった置屋のイメージをそのまま再現したのです。もともと、お好み焼きは置屋に集う芸妓たちの食べ物だったという古典落語もあるくらいで、そもそもSEXYでエロティックなイメージがあるんですよ。」


 

 かつては、岐阜の白川郷からやってきた人々が渋谷の円山町で始めた小料理屋や待合茶屋は戦後の高度成長時代を過ぎたあたりから次々と経営効率のいいラブホテルへと変貌していったということらしい。

 そんな歴史と風格ある街円山町。そのロケーションや立地に残る歴史的な痕跡に注目、新たに現代風のアレンジ蘇らせる。

 パルコ、イエローと70年代から90年代にかけて若者達の文化を創造してきた施設の企画に携わった鈴木ならではの発想だ。歴史的な伝統を踏まえた店舗作り。

 広尾の旧貴族の舘をカリフォルニア料理レストランとして蘇らせた株式会社プラン・ドゥ・シ-が手がけた「THE HANEZAWA GARDEN」「THE TOKYO RESTAURANT」 などが記憶に新しいところである。

 このように表面的にはロケーション・イメージを裏切り相反するように見えながら、実は、立地に潜在している客層に目をつける。さらに、歴史的な立地のもち特性をうまく蘇らせ現代風に再現していくなどのロケーションギャップ戦略は、極めて高度な戦略なのである。

 立地と店舗イメージのギャップを逆にプラスのイメージとしてお店の差別化要因として利用すること。立地の持つ、歴史的な価値を復元したり、潜在的な顧客層に注目して店舗展開をすること。

 こうした高度な立地戦略を成功させることにより、近隣の競合店とは絶対的に差別化された店舗が出店可能となる。つまり、お客さまに支持されるダントツ店を築くことが出来るのだ。



雀の御宿(ズズメのおやど)

東京都渋谷区円山町9-3
TEL 03-5458-2760

 

   店舗プロデューサー 堀 文明

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日本経営合理化協会 出版局 TEL:03-3293-0041