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堀文明の「次のトレンド・コンセプト」 3号

「何もしなくても良い」スタッフの役割
ハートランド(マダムYUKIが面白い)

 

 六本木ヒルズの誕生によって生まれ変わった街、六本木。その六本木ヒルズの一角に、週末は1000人以上ものお客様で賑うスタンディング型ビアバーがある。

 実はこのお店、キリンビール(株)と(株)フォ−シーズの共同プロデュース。オープン当初の目的は、キリンのビール「ハートランド」のコンセプトバーとして登場したが、当初の目的であるビールの販売促進という狙いをはるかに超えて商業的にも大成功を収めている。

 その成功要因の第一はハイクオリティなサービス。

 ハートランドは、カジュアルなスタイルのバーであるが、ここでは、一流ホテルのバーにも負けない「クオリティの高いお酒やサービス」を提供している。どんなに店内が混雑していようが、氷はすべて一つ一つアイスピックで割ったものを提供するなどの拘りよう。

 カジュアルなBARにありがちな乱雑なイメージからは、想像できない、きちっとしたサービスなのである。その「ギャップ感」のようなものが、ハートランドの根強いファン客達を魅了しているだ。

 第2に、このお店にはアーティスト達のPR&プレゼンテーション空間が設けてある。ギャラリーやDJブース、大型プロジェクターなどが備えられており、それらを利用したい、クリエイターやアーティスト、DJ達が、連日イベントを開催している。

 なんと、ギャラリーやDJのスケジュールは半年先まで全て埋まっているのだ。

 そしてこれによって自然と、いつ行っても表情を変える刺激的な店を演出することに成功しているのだが、そのような映像や音楽ソフトにほとんどコストがかかっていない。

 というのは、後述するような六本木で働いている知的でお洒落な客層を集客していることから、アーティスト達はほとんどノーギャラでプレイしたり作品を展示する。

 彼らにとっては、ハートランドはビジネスでお金を稼ぐ場ではなく、自分の作品をプレゼンテーションするスペースなのである。ここには、「優良顧客の集客」と「アーティスト達による映像・音楽などのソフトの提供」の素晴らしい好循環が機能しているのだ。


ハートランドのギャラリースペース



 ここまではどの媒体にも掲載されている事実に過ぎない。私が最も注目しているこのお店の最大の成功要因を紹介しよう。

 それは、ハートランドが六本木で生活したり仕事したりしている知的な優良な外人のお客さんを集客することに成功してきたこと。そして、そこにいる女性スタッフの存在が集客や雰囲気つくりの重要なポイントなっていることだ!

 ●お客様がお店をつくる!

 このBARの最大の商品は、なんといってもお客さま。ヒルズ・オープンを契機として六本木は、不良外人の溜まり場といった性格からファッション、金融、メディア関係のインタ−ナショナルな企業に勤務する人達の集積地へと変貌した。

 ハートランドは、そんな外国人達をうまく集客することに成功した。そして、そのお客様が作り出すのは、アメリカの大ヒットドラマ「SEX&CITY」に出てくるような、NYやロンドンのBARのような雰囲気。

 それだけではなく、それに反応するかのように、知的でちょっと危ないコミュニケーションを楽しむ日本人の女性客や、そんな雰囲気が大好きなインターナショナルな感性を持つ日本人客達がお店に集まり出したのである。

 そこから、生まれた、お洒落で知的なお客様たちが醸し出す雰囲気がこの店の最大の商品となっている。

 ちなみに、ハートランドが、掲げているコンセプトは、「Neighborhood Bar 」。この街に暮らす近隣者たちが、集い・出会い・語るスタンディングビア・バーといったところ。

 そのコンセプト通りに様々なコミュニケーションがお店の中で展開されている。ハートランドは、外国人を中心としたコミュニケーション好きな客層を集客し、お客様同士がコミュニケーションしやすい雰囲気を作り出すことに成功した。

 そして、その雰囲気を作り出した重要なポイントに、前述したある女性スタッフの存在がある。

 ●彼女の魅力がお店の雰囲気つくりや集客の重要なポイントとなっている!

 それが、マダムYUKIという女性スタッフの存在だ。本名岡田由紀さん。彼女の魅力がお店の雰囲気つくりや集客に重要なポイントとなっている。



マダムYUKI

 1960年生まれ。70年代後半から80年代にかけての六本木の「遊び人」。六本木がディスコ全盛だった時代に遊ぶことで培ったネットワークは今でも健在。

 20年前に一緒に遊んでいた人達が、40代〜50代になって社会の第一線、重要ポストになって働いている。今では、彼らが、彼女を訪ねて遊びに来るのだ。

 

 面白いことに彼女には、これといった定型的な業務は何も与えられていない。

 お客様と飲んだり、おしゃべりしたり、灰皿やグラスを洗ったり、お客様に誘われて食事にでかけたり、レストランやパーティーなどに営業に出かけたりと、彼女の職務は多彩、そして、まるで何をやってもいいスタッフのような存在なのだ。

 さらに、彼女はお客様を呼んだり楽しませたりすることに、関連・付随することは行うが、売上に直結する業務や経営数値に携わること等については、一切やらないし、そういったことに責任もない。

 彼女の存在は、オーナーでもないし、店長でもないし、プロデューサーでもない、ましてやホステスでもないのである。もちろんサーヴィス・スタッフでもない存在なのだ。

 にもかかわらず、お店の重要な役割を果たすスタッフなのである。

 ここで、キリンの敏腕プロデューサーの島田氏の言葉を紹介しよう。

 「彼女は、何もしなくていいんです。ただ、そこにいればいい。タイムカード押して出勤してから店をでるまで基本的に何をしててもいいんですよ」とのこと!

 店舗を経営する立場としては、何とも非常識かと思われるかもしれない。しかしそこには、ある狙いがちゃんと存在しているのだ。


hori'eye!

マダムYUKIのようなスタッフの特徴。

 1. 定型業務を持たない。

 サービスや売上に直結する業務を仕事として割り当てない。なぜなら、売上を上げることが、お客様志向と矛盾することが,おうおうにしてあるからである。

2. 店の外にいる時間が長い。

 彼女のようなスタッフは、店の外部で行動する時間が長い。情報収集だったり、PRだったり、営業だったり。パーティー、レストラン、イベント、コンサートなど。    人が多く集まるところにはよく顔を出す。

 3. とにかく顔がひろい。いろんな人を知っている。
 年齢、職種、国籍、ファションなど、様々な業界に人の顔と名前を覚えている。どちらかというと、年齢は高めの場合が多い。並外れたコミュニケーション力がある。

 4. 個人的な魅力を持っている。

 必ずしも仕事ができる有能タイプである必要性は無い。ただし、いろんな人に好かれることが求められる。綺麗だったり、会話が面白かったり、性格がよかったり、才能があったりなど。

 5. お店のイメージや他のスタッフの雰囲気からは、少し離れたギャップがあり、それが、逆にお店の雰囲気作りの重要な要素となること。

 



 実は、こうしたマダムYUKIのような存在は、昔から一部の流行店やレベルの高いお客様を集客しているお店には存在した。

 そういったお店の経営者は、無意識に「何をしているのかわからないけど、なんだか面白い人やスタッフ」を必ず配置していたのである。

 それは、お店を流行らせるための経営者の勘のようなものかもしれない。数値的にそのようなスタッフを配置することで、どれぐらい売上が上がっているのか把握することは不可能にも関わらず配置していたのである。

 結果的に、マダムYUKIのようなスタッフの持つパーソナリティが、お店の雰囲気とうまくMIXし、お客様を魅きつけるのである。

 こうした係数では図れない戦略的な発想は、売上高人件費率や、一人当たりの売上高などばかりを気にし、店舗の持つ本質的な要素・魅力・吸引力に気づかないサラリーマン的な発想からは決して生まれないのだ。

 なぜならハートランドをプロデュースした島田氏 (現キリンビール部長)自身も、日夜、何十年と様々なレストランやBARを歩いてきた一流の遊び人だから出てきた発想。フランチャイズ店ではもちえない、感覚的なもの(いわば嗅覚なようなもの)を大切にした結果なのだ。

 マダムYUKIのような、「何もしない」職務を持つスタッフを意図的に配置することが、今後の店舗展開をしていく際の大変重要なポイントとなると考えている。



ハートランド

東京都港区六本木6−10−1 
Tel    03−5772−7600 

http://www.kirin.co.jp/brands/HL/shop/

 

   店舗プロデューサー 堀 文明

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日本経営合理化協会 出版局 TEL:03-3293-0041