.

堀文明の「次のトレンド・コンセプト」 2号

音楽・空間・接客のミスマッチ

 21世紀ラウンジ X+Y(エックス・プラス・ワイ)





 様々な新しい飲食業態が乱立する街「恵比寿/EBISU」の一角に、妖しく・懐かしく・不思議なBARがある。その名は、「X+Y」。

 今、東京で一番新しい街にあるノスタルジックなBARだ。

 「過ぎ去った時代をテーマ」に、その時代を懐かしむ世代や、それを新鮮に感じる人々をとりこもうとする様々な試みが飲食業界で展開されている。

 今回ご紹介する「X+Y」もそんな飲食店のひとつ。

 その場合、重要なことは、いかに「懐かしの時代」を再現していくかという手法ではなくて、旧い時代・シーンを、いかに今の時代のトレンドや嗜好とMIXしていくか、いう視点と感性が必要となる。

 「X+Y」の場合は、「2000年代のクラブのラウンジ」(※)と「1970年代のスナック」を巧みに融合させ、「懐かしさと新しさ」をみごとに表現している。

 70年代の酒場にはまり、2005年のクラブで遊び歩いている40代の僕のような不良オヤジにはたまらない空間なのだ。 



ラウンジ/Lounge
語源は「無駄に時を過ごす」という意味合い。

 もともとは、踊ったり音楽を聞いたりする「クラブ」の片隅に設けられたスペースのことを意味する。音楽がガンガンと流れるダンスフロアとは違い、お客様が、一息ついておしぉべりを楽しむ目的として併設されているスペース。

 転じて、飲食業界では、音楽を聞きながら、お酒と食事を楽しむ「カフェ」や「レストラン」のことを「ラウンジ」と称して使う。


 


 ●70年代の日本語の歌謡曲を、ラウンジ的な空間で聞くギャップ
 

 「X+Y」で、流されているのは、70年代の日本の歌謡曲のみ。

 通常このような空間で流れているヒップホップやハウス、女の子に人気のR&Bやテクノの類は、一切かからないのである。

 山口百恵や沢田研二、ちあきなおみ、井上陽水、テレサ・テン、美空ひばり、ペドロ&カプリシャス….ほとんどの曲が昔聞いたことがある懐かしい70年代日本歌謡曲。それを、しっかりとしたサウンド・システムで大音量で聞けるのである。

 しかも、レトロな70年代風の内装空間ではなく、ラウンジのようなスタイリッシュな空間で聞く「70年代歌謡曲」はなんとも不思議だのだ。40歳以上の人間には懐かしく、20代の若者には新鮮に聞こえる。

 さらに、70年代の日本語歌謡曲に歌われた「恋」、「青春」、「初恋」、「夢」などのテーマを通して、誰しもが一度は経験したことのある、このような感情を、スタイリッシュなBARで喚起できることが面白いのである。

 もし、カラオケスナックで演歌がかかっていたら、懐かしいだけで、何の刺激も驚きもなくつまらない。この「X+Y」のように、「空間」と「音楽」のミスマッチが高いほど、お客さまに対してのインパクトが強まるのである

 



X+Yの店内(白い内装に赤いエロティックな照明を使用)

   



 ●もう一つのミスマッチ! 「サービス」と「空間」

 一般的なレストランプロデュースでは、「店舗デザイン」と「お店」のサービスなどのソフトを一致させる。しかし「X+Y」は、常識的なレストランの手法とは反対に、敢えて「空間」と「サービス」などのソフトを微妙にずらしているのである。

その微妙にずれているもののひとつに、70年代風のスナック的な接客がある。

 ここには、通常、青山や渋谷などのオシャレな空間では有り得ない、昔のスナックに居いそうなママさんが存在する。

 「X+Y」のママNさんは、一昔前のスナックにいそうなママのような雰囲気を備えていながら、チャーミングでどこか懐かしのアイドルのイメージを漂わせ、「X+Y」の雰囲気とあった不思議な魅力を持ち併せている。

 その接客スタイルは、いつもほろ酔い加減で、お客さんと一緒に、踊ったり、歌ったり、一緒に飲んだりといった接客が、おしゃれなラウンジスペースで展開されているのだ。

 さらに、女性がテーブルについて接客するクラブには必ずいる黒服の男性が居て、テキパキとお店を支える裏方役として活躍している。

 その他何人かのスタッフが、70年代風のお店の雰囲気を創り出す重要な要素として機能している。

 70年代風のスナック的接客を、今風のラウンジ的な空間で提供する。接客スタイルと空間のギャップが面白いのだ。


エントランス正面にあるカウンターバー。 棚には、70年代に流行したボトル・キープを意識してウィスキーボトルが並べられている。メニューには、サントリーオールドに、サントリーの角壜。ハイボールもある。



 ●70年代に青春を過ごした男達の夢の空間

 このお店は、早い時間帯は普通のサラリーマンやOL達でにぎわう。そして終電が終わり深夜過ぎともなると、続々とクリエイターと呼ばれる人たちが時間に関係なく遊びに来るのである。

 それもそのはず、このお店のプロデューサーS氏は、伝説的なディスコ「椿ハウス」の店長を務め、後の芝浦ゴールドを世に送り出した東京のナイト・シーンを創り続けた天才プロデューサーなのだ。

 そして、X+Yのコンセプト・メッセージを作り上げたのが、都築響一氏。彼は、ブルータス、ポパイ、など70年代以降の文化を創り続けてきた雑誌の敏腕編集者として活躍した人物だ。

 ここをプロデュースしたS氏によると、自分達が一番落ち着ける空間をつくりたかったそうだ。

 「X+Y」に行くと、今までの、流行から抽出された店舗をつくるのではなく、自分達が 気持ちいいと思う空間を提供することが求められているのではないだろうかと感じる。



「X+Y」
〒150-0021  渋谷区恵比寿西1ー4ー11 恵比寿吉川ビル4F
Tel    03ー5489ー0095
OPEN 19:00〜4:00 日・祝 19:00〜24:00

 7月18日から1週間、初のイベント「ハワイアン・ナイト」を開催するそう。70年代に流行したムード歌謡の雰囲気をたっぷり漂わせたパーティーなので、21世紀のラウンジを体験したい人には、ぜひお勧めいたします。


店舗プロデューサー 堀 文明

出版局トップにもどる
日本経営合理化協会 出版局 TEL:03-3293-0041