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堀文明の「次のトレンド」 1号

密着コミュニケーション

通称:アカバー

 

 

 東京の一角に通称「アカバー」と呼ばれるBARがある。4畳ほどの狭いに店内は、お客さんが、満員電車に寿司づめになったのごとくひしめいている。

 この狭い空間に、東京中の遊び人、ファッション・モデル、外国人、カメラマン、DJ、etcが、その魅力に次々と引き込まれて行く。週末ともなると、お店の外にまで人が溜まるのである。

 ひっきりなしにマスコミからの取材要請が来ているこのBAR。 オーナーの意向で、一切の取材を拒否しており、その存在は、一部の人たちにしか知られていない。

 もちろん、僕の取材も断られた。「堀さん、悪いけど、先日も某TV局から2000万円で番組制作のロケーションに使いたいとの要望があったけど、断ったばかりなんだ。」といった状態だ。

 残念ながら、店名、住所など、お店の所在を推測させる情報は、一切出すことは出来ないが、そのコンセプトには、マスコミが取り上げたい理由がちゃんと存在している。


高密度なコミュニケーション空間

 ここでは、今主流の「ゆったりしたレイアウト」「ゆとりある空間」など、まったくお構いなく、「異常なほど・狭い・密着」したスペースにお客様が、寿司詰めになっている。

  そこは、ゆとりのある、リラックスできるスペースというコンセプトとはまったく対極にあり、むしろ、そこは、「ごちゃごちゃ・狭い・窮屈」なスペースである。

 しかし、そうしたお客さま同士が「異常密着する空間」が、お客様同士のコミュニケーションを促しているのである

 ゆったりしたリラックスできる空間に飽きだした人達には、満員電車のような密着感が新鮮で、たまらないのである。

 このお店に行けば「そういえば、どこかでお会いしましたっけ?」などと、見知らぬ女性が声をかけてくる。隣り合わせた人と何年来の旧知の友達のように語り合う。もちろん、翌朝になると何を話したか、まったく記憶にないのだが。

 ここで長い夜を過ごすのは、ディスコやクラブで遊んでいるタイプの若者達ではない。ここに集うのは、遊び好きなお洒落な大人達なのだ。



Hori' eye !

 「個室ダイニング」「漫画喫茶」、「インターネット・カフェ」などに代表される「プライベート」を重視したコンセプトから、「お客様同士がコミュニケーションできる」といったコンセプト。

 海外の飲食店を経験した人達が増えた今、「お客様同士がコミュニケ−ションを取りやすい店作り・環境作り」が、新しい展開の重要なポイントになりそうだ。

 そして、この環境作りのキーポイントとなる点が、

 ●客層をどこに設定するか●スタッフのサーヴィスと個性にある。 
 



デザイナーズレストラン流行の歪み!

  ここの店内には、配置とかバランスとか、そんな建築学的・デザイン的な発想をまったく無視した、オーナーのM氏が集めた東欧やロシアの骨董品がディスプレイされている。

 まさに、悪趣味で無造作で装飾過剰。鏡、シャンデリア、エロティックな絵画など、 真赤なベルベット地の壁面におびただしい数の骨董品。その悪趣味さは、極めてセクシーである。

 ここには、「一流」のデザイナ−のデザイン作業の痕跡などまったくないのだ。

 もしデザイナーや、コンサルタントに内装を依頼していたら、真っ先に反対され、出来上がってくる店舗デザインは、おそらく、流行の店舗をコピーしたつまらないものとなっていただろう!


 Hori' eye !

 雑誌に取り上げられるようなスタイリッシュで、お洒落な空間に違和感を感じる人達は、多い。

   このバーは、個人の乱雑で猥雑で過剰なディスプレイが、逆に心地よい。

 

   



●「PRしないという」PR方法

 お店のオープンは深夜2時。店舗を経営する立場からすると、なんとも非常識だ! しかしそこには、ちゃんとした狙いが存在する。

 終電が終わってからオープンするので、終電で帰宅するような生活している人達は遊びに来れないのだ。

 ここは、極端に客層を絞り込んだ、夜遊び大好きな人たちしかこれない。遊び好きの特定の人たちのためだけのスペースなのだ。

 ロケーションは都内の某タ−ミナル駅に近い裏通り、目だった看板も設置されていないので、こんなところに、お店があることすら誰も知らない。

 加えてこのお店には、所在地を表す「ショップ・カード」もなければ、「電話」すらない。唯一のアクセス方法といえば働いているスタッフ達の携帯電話のみ。

 マスコミには一切登場しないので、口コミでしか知りようもないお店なのである。

 唯一行ったお店のPRは、ファッション系パーティーを開催することで知られているホテルクラスカで開催されたこのバーの一周年記念パーティー。それは、800名以上もの人を集め開催された。

 その記念パーティーに訪れた多くのお客様には、このバーの存在・所在などは一切教えていない。会場には、お店の存在を知らしめるチラシや案内など一枚もない。おまけに、パーティーに出席したお客様が、スタッフや主催者にバーのことを聞いても、ノ−コメント。店名も所在も何も教えてくれない。

 唯一、主催者側が、与えてくれることといえば、このパーティー会場でバーに行ったことのある人と、友達になって、つれってって貰ってくださいということのみである。バーのパーティに来たのに、バーのことは教えてくれない!

 ここまで、秘密にされたらどうしても知りたいと、参加者は思うに違いない。次々と好奇心を煽られるいかにも秘密のバーらしいPRだ。ちなみに私は、偶然にもオーナーのM氏と出会うことが出来たので、その存在を知ることが出来た。
 
 


Hori' eye !

 営業時間、ロケーション、客層、PR方法。全てが、マスをまったく無視したスタンスである。顧客も、営業時間も、PRも、すべてを限定・絞り込むことで、このバーは一つのスタイル・コンセプトを維持している。




 スタッフ自体も、集客の大事な要素!

 このお店には、個性的で強烈なスタッフ達がいる。

 ここのオーナーのMサンは、黒い帽子に、黒いサングラス、口ひげ、やや腰を深く曲げて歩く独特の風貌だ。一度、見たら絶対に忘れられない。オーナー自身も、猛烈な遊び人だ!

 酔いどれバーテンダーのYさん。お客さんに通称「もっさん」と呼ばれている。このバーテンダーは、「ヘイ、いらっしゃい。何、飲む? オー、元気だった?」 誰が来ようとこんな感じで、下町のお寿司屋さんの威勢よさと、NYのバーテンダーのフレンドリーさをミックスした不思議な感じだ。

 アカバーの看板娘Nサン。早い時間は銀座で、深夜になるとアカバーにやってくる。ニューハーフのようにSEXYで妖艶、そして元気.170センチ近い長身をゆすってカウンターに腰掛けている。「あら、久しぶりね。なんなのよ。それ。」青山のモデル、六本木のニューハーフ、昔のスナックのママ。それを全部MIXした雰囲気の女の子。

 どんな範疇にもはいらない不思議なスタイルと接客だ。3人が3人とも、いわば、「自己流」「無国籍流」。世界中の人たちが集まる都市のBARだから許されるスタイルなのかもしれない。

 しかし、大事なことは、個性がぎらぎら輝くスタッフ達がいることだ。そして、そんなスタッフ達と波長の合うお客様達がぞくぞくと集まってくるのだ。

 


Hori' eye !

 「コミュニケーション」をコンセプトとした空間を提供するのであれば、お店のコンセプトに合うスタッフ達がいることが重要だ。

 その効果は絶大!スタッフ達と波長の合うお客様達が自然と集まってくる。



店舗名なんて、関係ない「通称」で呼ばれる!

 人が集まり、人が人を呼ぶ。正式名称「○×◆」で呼ばれることは殆どない。

 ここは、お客様が感じるそのお店の特徴を総称し、好き勝手に、スタッフの名前を取って「もっさんバー」だとか、お店の内装を表した「アカバー」「シャンデリア・バー」などと、呼ばれているのだ。

 いいお店というのは、たくさんの顔を持っているものだ。お客様の数だけ、スタッフの人数だけ顔があるのである。

 お客様はそれぞれ自分の感じたままを、そのお店の呼称として表現したくなる。誰かが付けたネーミングなど誰も覚えていないものだ。

 親しい友人や、彼女には、ニックネームがあるように、ファンととなった店舗にも愛称が必ずあるものなのである

 第一回目となる「次のトレンド」として、今の主流「プライベート」「個室」とは対極のコンセプト「コミュニケーション」をご紹介した。近いうちに、このコンセプトを前面に打ち出したレストランなどが出てくるだろうと睨んでいる。

※オーナー側の意向で、店名、住所など、お店の所在を推測させる情報は、控えさせていただきましたことをお詫び申しあげます。使用いたしました写真は、コンセプトを連想しやすくするために、イメージ写真を使わせていただいております。

店舗プロデューサー 堀 文明

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