社長の条件 まえがき
発刊によせて

 本書におさめた二編は、かつて産業能率短期大学より出版されたものである。それを同大学のご好意により、ここに再刊することができた。この紙面を借りて同大学に感謝の意を表するものである。
 「社長学」は1967年11月に発刊したものである。この本の意図は気楽に読める社長「読み物」というものであった。それが意外にも大きな反響があり、如何にこの種の本が求められているかを、今更のように思い知らされたのである。
 それ程求められているのなら、私の持っているものすべてを、社長方にお知らせしようということになり、これが「一倉定の社長学」シリーズを生む動機づけとなったのである。
 内容は、「一倉定の社長学」シリーズのダイジェスト版ともいえるものである。「人間社長学」は、社長の人間像と、もう一つは社長と企業との人間的な関係をとらえようと試みたものである。それと同時に、私自身が実務の中で苦しみ抜いた末に得た、自らの主張を盛りこんだものである。
 そのためかも知れないが、たくさんの読者から「迷いがふっ切れた」「自らの考えに新たな自信を得た」というような感想をよせられたのである。両著とも、右のような読者の反響があったために、再刊もムダではないと思い、若干の補筆改訂を行って今回の刊行となったものである。「一倉定の社長学」との併読を賜われば幸甚である。

                    1977年11月     一倉 定

まえがき

 会社というところは、人間というやっかいな動物の集団である。このやっかいな人間の集団を管理し、自分の思うように働かせようとする社長の悩みは深刻である。
 その悩みを解決してくれるはずの伝統的な人間関係論は、働く人々の立場を尊重し、人々の人間的な欲求を研究して、これを満たしてやれば働く意欲が上がることは間違いない、と説いている。
 しかし、それらの人間関係論は、あくまでも個人または個人と集団との相互関係に限られてしまって、企業の経営には全くふれていないのである。それらの人間関係論を企業に導入すると、不思議なことにyy実は当然のことであるが、社長の指令が前にも増して行き渡りにくくなるのである。
 伝統的な人間関係論は、常に個人が企業経営に優先する思想だからである。といって、社長の意思を強引に通そうとすると、ワンマン・コントロールになって、人々は働く意欲をなくしてゆく。いったいどうしたらいいのか。まったく処置なしというのが、社長のいつわらぬ気持であり、悩みなのである。
 この社長の悩みをどう解決するか、という命題と取組んでみたのが本書である。その解決法は、私の関係した数多くの会社で実効を上げている実証ずみの原理だけに限定した。それは、従来の人間関係論とは、その視野と次元が相当違うのである。
 人間関係を、単なる個人の心理分析から出発して解決しようとしても、そこからは次元の低い目先の解決法しか生まれてこない。人間関係は国民性や社会的習慣によって、そのあり方が違うからである、だから、日本には日本の歴史、風土から生まれた国民性や物の考え方、社会的習慣などから生まれる日本独得の人間関係がある。同時にこれは、他国には通用しないものである。
 その日本独得の人間関係から、日本の企業における独得の人間関係が生まれるのである。そして、企業内の人間関係である限り、企業の業績向上に役立つものでなければ意味がない。
 企業の経営に焦点をあわせ、経済的成果の達成のために、社長はどのように社員を動機づけ、指導しなければならないかを、社長の人間的側面ともあわせて解明を試みたのである。
 本書が、悩み多き社長のために少しでもお役に立てば私の喜びはこれに過ぎるものはない。          

                                 一倉 定
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