成長の原理・まえがき
はじめに

 私は、1989年に「成長の原理」なる本を出版した。この本は、人間をはじめ、国、県、企業、商品、科学や技術のように、成長過程をたどるものは、その成長の様子に共通の原理があるのではないかと思い、それまで研究してきたものを「成長の原理」として一冊にまとめたものである。

 当初この本は、読者にそれほどの関心をもってもらえないのではないかと思っていたが、難しいタイトルにもかかわらず、通算8000部出版された。さらに出版社の都合で絶版となった後も、この本を欲しいという人が多く、やむなく1000部を自費出版したが、それもたちまち手元からなくなってしまった。この間、「成長の原理」を読んでいただいた多くの人たちから、「企業の成長」にのみマトをしぼったものを出版してほしいとの要望が多数よせられた。

 私は本来、経営の専門家ではない。大学を卒業するとすぐエネルギー関係の研究の道に入り、今日まで、伝熱工学を専門としてきた者である。その私がなぜ、「成長の原理」をまとめる必要があったのか、簡単にふれておきたい。

 今から30年近く前になるが、学位論文をまとめだしたころから、それまでの研究方法に疑問をもちはじめた。同時に、論文を学会に投稿するたびに、虚脱感におそわれ何か空しい気分になった。なぜなら、研究の対象について、その基本理論のほとんどが欧米ですでに理論づけられ、体系づけられていたからである。

 自分の研究は独創的ではない、欧米のモノマネに過ぎないのではないかと。その頃から、創造性や学問の発展過程や技術開発、製品開発のやり方について、真剣に考えるようになった。そして自分の専門である伝熱工学や発電所の技術について、その発展過程を詳しく調べてみた。

 その結果、伝熱工学については、若干、日本独自の研究成果があるにはあったが、火力発電や原子力発電の技術については、まったくといってよいほど日本独自のものがなかったのである。このことを知ったショックは大きく、さらにほかの科学や技術についても調べてみると、ほとんどの分野の基本的理念に、日本独自の創造的なものがないことに気づいた。

 しかし一方で、日本は戦後すごい勢いで経済成長をとげ、独自の基本的技術などもたないにもかかわらず急成長した企業が多くある。また日本の国自体も、ほかの国以上に急成長してきた。この状況を、単に日本人の特異性だけで説明するには、矛盾が多く十分なものではないと考え、さらに研究を進めていった。

 そのうちに、科学や技術を創造し発展させ、成長させたり、企業や国を発展させ、成長させたり、人間が成功するためには、何か共通の原理(成長の原理)のようなものがあるのではないかと漠然とした考えが浮かんできた。その共通の原理とは何か?ということを考えだすと毎日が楽しく充実したものになった。

 ちょうどその頃に、「海洋温度差発電」という新しい研究に着手し、これを成長させてみようと考えた。この海洋温度差発電は、1881年にフランスで考案されたものであるが、それまでに実用化された例はなく、また研究の蓄積もほとんどなかった。実用化にあたっては、従来の日本の技術のように欧米のモノマネはできず、日本独自の創造的な研究開発が前提であった。

そのためには、この技術を発展成長させる基本理念がどうしても必要となった。そこで、私独自の「成長の原理」を作った。それが次の5つの原理、第1原理創造・忍耐の原理第2原理成長限界の原理第3原理並列進行の原理第4原理条件適応の原理第5原理分離・再結合の原理である。

 この原理にそって研究を進めていくと、面白いように種々のアイデアが出て、将来に対する展望も開けてきた。この5つの原理について、たまたま知り合いの企業経営者と断片的に話しているうちに、「成長の原理」が企業における技術開発や製品開発、さらには企業の経営そのものにも活かせるのではないか、という人たちが現れた。

そして「成長の原理」を積極的に経営に利用していただいたところ、社会情勢に適応したこともあって、急成長していったのである。なかには中小企業から年商千億円を超える大企業になったところも数社生まれてきた。

 こうなると多少自分の考え方に自信がついて、それまで漠然としていた原理を、さらに整理し、体系化して、その結果を経営者の前で講演するようになった。私の考え方に賛同してくれる経営者もしだいに増え、地元の経営者を中心とした、年商100億円の企業づくりを目指す勉強会「チャレンジ100」をはじめ、種々の研究グループができてきた。

 それらの経営者から、成長の原理を本にしてほしいという声が多くなっていった。そこで、まだ不完全ながら、それまでの考え方をまとめて出版したものが、今は絶版になった「成長の原理」であった。

 その後、経営者による「成長の原理」実践研究グループが全国に広がり、現在では300社を超える企業が、成長の原理にもとづいて事業を展開されている。なかには、5年間で売上を10倍増させた企業や、株式上場をするまで成長した企業が次々と現れてきた。

 それらの熱心な経営者に囲まれて、経営の分野では素人の私が、本当に多くの貴重な体験をさせてもらった。また本業の伝熱工学の分野でも、発電所のシステム論と企業経営の接点が多いことも、経営者の方々から逆に教えていただいた。

そんな折に、日本経営合理化協会の出版局長本間登美雄氏から、「経営者のための成長の原理」をまとめてほしいという熱心なお誘いがあった。そこでこの機会に、私の年来の考え方を、企業を成長させる方法にマトをしぼって論じるのも意味があるのではないかと思い、新たな体験を大幅に加え、ここに改めて、「成長の原理」を出版することにしたわけである。

 本書が、読者ご自身の企業を成長発展させる具体的な手がかりとなることを、心から願っています。

平成8年11月吉日  上原春男
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日本経営合理化協会 出版局 TEL:03-3293-0041