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人間は誰しも他者との関わりなしに生きてはいけません。その関わりはまず血縁の
家族に始まって、さらに社会的なものとなっていきます。太古の部族の集落以来、歴
史の推移の中で人間はさまざまな集団組織を形成し、ともに生きて栄えるという共通
の目的を追求してきました。
中世から近世、さらに近代から現代と進むにつれ、人間が構築する組織は武力の
集団や商業のための有効な組織、官僚機構や近代企業等々ますます多様化し、共
通しての目的を追求し、効果の向上に努め、その過程で組織対組織の摩擦や闘争
を繰り返してきました。
企業にせよ国家にせよ、いかなる組織であろうと、そうした人間たちの集団による行
動の成果を決定したのはそれを率いる指導者の資質と能力に他なりません。
人間の歴史はそれらのさまざまな組織集団が複合的、重層的に形作ってきたもの
であって、言い換えればさまざまな指導者たちの資質がその根底を造っているともい
えます。
国家にせよ企業にせよ、それぞれの共同体の幸不幸、さらには繁栄や衰退、滅亡も
また指導者の能力資質に依ったものとさえいえます。
故にも、いかなる指導者を選び仰ぐか、指導者たる者がいかにあるべきかが、国家
にせよ企業にせよそれぞれの組織の歴史を左右するはずです。この本ではそうした、
いわば歴史工学の視点から指導者について考えました。
それにしても過去の優れたもろもろの指導者たちを眺めなおすと、彼らはそれぞれ
その悩み、迷い、決断、成功において、失敗においてすらいかに個性的であり、それ
故にも極めて人間的であったことでしょうか。
「僕たちは、みんな虫だ。しかし、僕だけは…蛍だと思うんだ」
これはかつてのイギリスの名宰相チャーチルが少年の頃、友達と人生の意義を論
議していて語った言葉だそうな。彼は死ぬまで、自分が特別な人間であることを信じ
て疑わなかった。そんな彼のことを怒る者もいたが、多くの人は感動しました。
こうした常人の持ち得ぬ自負こそ、チャーチルに限らず、今までにこの世で誰もがで
きない大事を成し遂げた偉大な指導者たちが多かれ少なかれ持っていた、人間的特
質に違いありません。
誤解のない様にいえば、彼らがいつも人を見下す、特別偉い人間だと自ら思ってい
る、という意味では決してありません。
しかし、彼らに共通して言えることは、事を成すにあたって常人には及ばない大きな
志と、自分でなければできないという強い自負を備えた強い個性の持ち主であること
でしょう。そして優れた指導力の根元には、指導者自身を奮起させ、彼がひきいる人
々を奮起せしめるに偉大なビジョンが必要とされます。
私は今は亡き水野成夫氏(産経新聞元社長)にとても可愛がられ、お陰で石坂泰三(経
団連第二代会長)をはじめ、土光敏夫(経団連第四代会長)、永野重雄(新日本製鉄元名誉会長
)、桜田武(日経連元名誉会長)、木川田一隆(東京電力元社長)など、当時の財界の大物た
ちに気軽に会うことができ、彼らも若造の私相手でもなおともに天下国家を論じてく
れ、日本のあるべき姿を真摯に求めていた姿を間近に見ることができました。
当時仰いで見ていた大先輩の経済人との会話では、よく「石原君、国家はな」とか
「世界はな」といった言葉が出てきましたが、最近の経済界を眺めると、上下関係の中
では偉い人ではあるのだろうが、かつての先輩たちのような指導者としての大きな志
を一向に感じさせられません。話をしても自社の業績がどうのこうの、ライバルがどう
したこうしたといった話題が多い。いまの経済人は政治家同様、いかにも小粒になっ
てしまったような気がします。
その違いを問われれば、自らの体の内に一企業の領域を超えて、日本人としての意
識をいかに強く保有しているか、言い換えれば、世代や立場を超えて社会・国家を踏
まえた大きな志の有無といえるでしょう。
かつての日本の指導者たちにはそれが歴然とありました。先進世界に堂々と伍して
戦える、「指導者としての自負」「世界観と長期ビジョン」「哲学」「戦略性」「旺盛な行動
力」そして日本固有の価値の基軸としての「武士道精神」。
しかし、現今の指導者の中にそうした大きな志を感じさせる人物がいかに希少なこと
か。それが今日の日本に見られる、停滞と混乱の原因の一つともいえます。
今、私たちはバブル崩壊後の長い低迷の中での、経済疲弊だけではなしに人々の
精神までが明らかに疲れて病み、打開の道の定かならぬまま、漠たる、しかし拭いよ
うのない強い不安と不満の中に過ごしています。
この国はどこに向かおうとしているのか。私たちがこの半世紀かけてつくして来た努
力、あるいはそのはるか以前から先人たちが培い尽くしてきた志ははたしてこれから
先、報いられようとしているのか。
「いずこにぞ、真の指導者」、これはひとり経済界のみならず、政界、官界、教育界、
芸術の世界まで広い分野にわたって提言したい、私の願いです。
本書を通して、私が敢えて訴えたいことは、彼ら先達に多くを学ぶことは無論、二一
世紀を生きる指導者として、彼らを超える優れた理念、価値観、行動のものさしを汲み
とってもらいたいということ。
現代日本の最大の問題点は、国家として真に自立していない点にあります。「立国
は公にあらず私なり」、故にもこの日本を救うために具眼の士として、真の意味で自立
した傑出した指導者の出現を待望してやまないのです。
2004年1月
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